小説(十二国記二次)

□第二十一章 証拠 前編
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その日は、城の上層部が全員忙しかったため、寧瑛は明藍の許で1日過ごすことになった。

朝、引き取って部屋に連れてきた幼子は、大人しく玩具で遊んでいる。

と、こつこつと扉がたたかれて、明藍は立ち上がった。

「どなたですか?…!?」

扉を開けると、そこには先日も会った少女が立っていた。

「しゅじょう」

いつの間にか足元にいた寧瑛が、陽子を見上げている。

「こんにちは。10日ぶりくらいかな?」

「は、はい」

「ちょっと寧瑛を借りに来た」

「…はい!?」





「だめです」

陽子が許可をとりに行くと、晴穹は即答した。

「いいじゃないか。夕方には帰すよ?」

「だ・め・で・す」

頑として頷かない晴穹に、ちょうど顔を出した桃莉が首をかしげた。

「でも、私達は今日は1日かまってあげられないし、ちょっと出掛けるぐらいなら…」

「そうそう」

うんうんと頷いた陽子を、晴穹はぎろりと睨む。

「金波宮は"ちょっと出掛ける"距離ではありません!」

「き、金波宮ぅぅぅ!?」

桃莉の声が裏返った。次いで、陽子にくるりと向き直る。

「やっぱりだめです!」

「あ、こら、裏切り者」

「そんな遠くに行くとは思っていませんでした!」

普段は、陽子には丁寧に接している桃莉だが、寧瑛が絡むとなると強硬になるらしい。

陽子は、むっとしたように唇を尖らせた。

「危ない目には遭わせない」

「当たり前です!」

「だったらいいじゃないか」

「5歳の子供がそんな遠いところまで行くこと自体が問題です!」

「それに、主上も仕事がおありでしょう」

頑固な2人に、陽子はにっこりと笑う。

「問題ない。班渠に乗せてもらえばすぐに着く。それから、私が仕事でも使令達がいるし、鈴と祥瓊――うちの女御と女史もいる」

これでどうだ、と言わんばかりの顔に、反論しきれなくなった州侯と令尹は揃って沈黙した。

「…どうして連れていきたいんですか?」

「特に必要があることだとは思えないんですが」

やや折れた2人の疑問に、陽子は頭を掻いた。

「晴穹が子供育ててるって話したら、嘘だと思われてさ。証拠を見せようと」

「…なるほど」

うっかり納得してしまった桃莉は、隣からの冷たい視線に冷や汗を流した。

「えーっと、皆様晴穹のことをご存じなんですか?」

「近しい人は、全員知ってるよ」

「そうなんですかー」
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