小説(十二国記二次)
□第二十章 襲来・参
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その日の空も、よく晴れていた。
風は少し冷たいが爽やかで、行空師などは、騎獣に乗って空を飛べば気持ち良いだろうと思った。
そして、似たようなことを考えた者は、金波宮にもいたのである。
「こんにちは」
「ぎゃあ!」
突然、窓の外から話し掛けられた桃莉は、外見に似合わない悲鳴を上げた。
「すごい悲鳴だな」
窓を見ると、真紅の髪の少女が笑っている。
桃莉は慌てて頭を下げた。
「お、お久しぶりです」
「うん、元気だった?」
「あ、はい」
窓を乗り越えてきた陽子の影に、妖魔がするりと消える。
桃莉は、溜め息をつきそうになるのを堪えた。
「今日も遊びにいらしたのですか?」
「まあね」
そう言って、この国の王はからからと笑った。
ひとまず桃莉は、陽子を晴穹の執務室まで案内することにした。
陽子自身は自分で勝手に行くからいいと言ったのだが、そう言われてはいそうですかと一国の主を放り出せるほど、桃莉は面の皮が厚くない。
執務室の側まで来た時、ぱたぱたと足音が聞こえ、寧瑛が姿を現した。その後ろには、慌てて追い掛けてきたらしい明藍もいる。
陽子を見ると、寧瑛はぱちぱちとまばたきをした。
「しゅじょう」
「久し振り」
陽子は、寄って来た幼子の頭を軽く撫でる。
「えっと…、"しゅじょう"って、え、主上!?」
この場で唯一初対面だった明藍が、悲鳴のような声を上げた。
何かの間違いだと言って欲しい、という顔で桃莉を見る。桃莉は、間違いと言いたい、という顔で明藍を見返した。
「………」
「………」
「えっと…」
何はともあれ、この国における至上の存在が目の前にいるのである。明藍は、あわあわと頭を下げた。
ところが、
「頭を上げてくれ。私が勝手に来たわけだし」
けろりとした声音でそう言われてしまい、ますます混乱してしまう。
その時。
「ここの者をあまり困らせないでいただけませんか?」
「明藍、大丈夫かー?」
晴穹と雪條がやって来た。
「困らせるつもりはなかったんだけどな」
真紅の女王は、苦笑いした。
「ほいほいと遊びに来ないでくださいということです」
晴穹の遠慮の欠片もない発言に、陽子と寧瑛以外が目を剥く。