小説(十二国記二次)
□第十九章 続・食欲
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ある秋晴れの日。
桃莉と寧瑛は、明郭の街を楽しそうに歩いていた。
仲良く手を繋いでいる2人を、擦れ違う通行人が笑って見送る。
――数十年前から当たり前に見られるようになった、平和な光景であった。
さて、この日2人が出掛けたのは、この時期に出てくる料理や菓子が目当てである。
「ひとがいっぱい」
普段より混雑している街の様子を見て、寧瑛が目を丸くする。
「いい天気だからねー。それに、今年はどれも美味しくできたんだって」
桃莉は、今年は米も果物も豊作だという報告が上がってきていたことを思い出しながら、返事をした。
「なにをたべるんですか?」
「何が食べたい?」
「んーと」
きょろきょろと辺りを見渡した寧瑛は、ぱっと笑顔になった。
「あれ!おいしそう」
童女が指差したのは、小さな饅頭屋だった。栗と餡の甘い匂いが漂っている。どうやら、餡の中に栗が入っているらしい。
「美味しそうだね」
桃莉も頷いて、そちらに歩き出す。
店に近付くと、甘い匂いはますます強くなる。
「幸せな匂いー」
ご機嫌な桃莉は、早速饅頭を2個購入する。が、
「お使いかい、お嬢ちゃん?」
という売り手の一言で、顔を引き攣らせた。
「…あのー、私のこといくつだと思ってるんですか?」
「うん?16ぐらいじゃないんかね?」
「………!………!………!」
衝撃のあまり、口をぱくぱくさせている桃莉を寧瑛が不思議そうにつつく。
――ちなみに、桃莉の見た目の年齢は20歳である。
「私ってそんなに子供っぽいかなあ」
饅頭を食べながら桃莉はぶつぶつと愚痴る。
愚痴りながらもさっさと食べ終わると、小さい口で饅頭を囓っている寧瑛に顔を向けた。
「私って子供っぽいかなあ?」
5歳児に真剣に問い掛ける姿はかなり馬鹿馬鹿しかったが、この場にそのことを突っ込む人間はいない。
「とおりさまはおとなです」
寧瑛は真面目に答える。
「だよねー!よかったー!」
5歳児からすればだれだって大人なのだが、そのことを指摘する人間もこの場にはいなかった。
饅頭を食べ終わった2人は、今度は茶店で寒天を食べることにする。
梨を使った変わった寒天菓子が好評らしく、その茶店は混んでいた。
ようやく見付けた空席は1つだけだったので、桃莉は寧瑛を膝に乗せて座った。
「可愛い子だね」
「娘さん?」