小説(十二国記二次)

□第十三章 襲来・弐
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ある日のこと。

この慶の主たる少女は、またもや和州城に顔を出していた。





いつものごとく窓から入りこんだ陽子は、班渠に影に戻るように言おうとした。が、

「だれ?」

「え?」

突如聞こえた幼い声に、口にしようとした言葉の代わりに疑問の声がこぼれる。

振り向くと、5、6歳の童女が大きな目を見開いていた。

その視線が班渠の方を向いたことに気が付いた陽子は焦る。以前、使令を目撃した幼子が泣いてしまったことがあるのだ。

ところが、この童女は予想外の反応を見せた。

「きれい!」

顔を輝かせた幼子に、さしもの陽子も唖然とする。

綺麗だと言われた班渠は、ぽかんと口を開けている。この状態だと牙が丸見えなのだが、幼子は気にしていないようだった。

それどころか、とことこと近付いてきて使令をうれしそうに見上げている。

見上げられた側は、困惑した様子で陽子の方を見た。

「あー、相手してやれ」

「………」

班渠はますます困惑した表情になったが、おとなしく座り込んだ。

「ほら、触ってもいいってさ」

「わあい」

班渠に小さな手を伸ばす幼子を見て、陽子は顔をほころばせたが、ふと首をかしげた。

(…この子、誰だ?)

ちなみにここは城の奥まった場所である。つまり、それなりの地位にある者の関係者ということになるのだが。

ご機嫌な本人に訊ねると、

「あざなはねいえいです」

と名乗る。

「…名乗られても分からないんだけどな」

「?」





しばらくの間、班渠にじゃれつく幼子を見ていた陽子は、ふと思い付いて問い掛けた。

「晴穹っていう人を知らない?」

「しってます」

「知ってるのか?」

「いっしょにすんでるの」

「………。ごめん、もう一度言ってくれる?」

「いっしょにすんでるの」

「………」





執務室の扉が叩かれる。

顔を上げた晴穹は、入ってきた者の顔を見て、小さく溜め息をついて礼をとる。

「主上…。本日はどのようなご用事でいらっしゃったのですか?」

「遊びに来た」

「………」

「まあそんなことはどうでもいい」

「よくありません」

「それよりも」

「………。はい」

「お前、いつの間に婚姻していたんだ?」

「…寧瑛のことなら、私の実の娘ではありませんよ」

「なんだ、そうだったのか。面白くない」

相手の渋面をよそに、口を尖らせる女王であった。
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