小説(十二国記二次)

□第八章 秘密
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「ねえ」

そのとき、若き和州侯は執務の間に休憩しているところで、向かいには同じく休憩中の令尹がいた。

例によって例のごとく、ろくでもないことを思い付いたに違いない表情の部下に、晴穹は身構えた。

「…なんだ」

「うん、あのね、…なんでそんなに警戒した顔なの?」

「自分の胸に手を当ててよく考えろ」

「まあいいや」

さっくりと流されてしまい、晴穹は口元をひくつかせる。

「それでね、雪條のことなんだけど」

「あいつがどうかしたのか?」

「何か秘密があるみたい」

「秘密の一つや二つ、誰にでもある」

相手の反応はかんばしくないが、桃莉はいつも通り気にしない。

「最近、休日はよく出掛けてるし」

「そうか?」

「そうだよー」

「…そういえば、そうだったかも知れない」

「でしょ?ほら、気になってこない?」

「いやまったく気にならない」

なんでー、と文句を言っている桃莉のことはほうっておくことにした晴穹は茶を一口飲んだが、

「あああ!」

「んぐっ」

突然の叫び声に驚いて吹き出しそうになる。

「ねえねえ、…あれ?なんで咳き込んでるの?大丈夫?」

「だ、誰のせいだと…」

「あ、それよりもね」

またもやさっくりと流されてしまい、晴穹の額に青筋が浮かぶ。そのことに気が付かない桃莉はこう続けた。

「雪條が美人と一緒にいる!」





雪條には恋人がいる。この城の女官・明藍(めいらん)である。

穏やかな性格で働き者で、顔立ちも整っている彼女は、かなりの人気者でもある。

城で一緒にいるとあちらこちらで睨まれるので、休日は街に出掛けるようにしていた。

今日はたまたま庭で一緒にいたのだが、現在彼はこっそり窓を睨んでいた。

というのも、窓から桃莉の顔が覗いていたからだ。

こちらを見て楽しそうに笑っている。どうやら声を掛けてこようとしているらしいと気がついた雪條は口を引き攣らせた。

明藍も雪條の視線をたどって桃莉を見付ける。

「れ、令尹!?」

明藍がわたわたと赤くなる。

それを見て、ますます楽しそうな顔になった桃莉が口を開いた。

「雪じょっ」
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