短編夢BOOK

□貴方の愛
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 訓練の合間の休憩時間、私達は一つのテーブルでお茶をしながらくつろいでいた。

「おいエレン。お前さっきの馬上訓練の時、何で俺より前を走りやがったんだ。」

オルオの不機嫌そうな声にエレンはが肩を震わせた。ペトラがオルオを睨みながら言う。

「オルオがペラペラ喋って歩調乱すからでしょ。」
「それにしてもエレンは随分上手に馬を操る様になったな。」

エルドがしょんぼりしているエレンを慰める様にして言うが、それに対してグンタは難しそうな顔をして言う。

「いや、しかし壁外では隊列を乱すのは良くないんだからな。エレン。ちゃんと周りを見ろよ。」
「は、はい……。」
「そうだぞ!エレン!!お前はまだ新兵なんだからな!俺より前を走るなんて100年早い!」

フフン、とばかりに言うオルオをペトラが黙って睨み付けた。

「でも本当、エルドの言う通りエレンは上手に乗る様になったね。」

今度は私が慰める様にエレンに言うと、エレンは嬉しそうに笑った。

「名無しさんさん。俺、もっと頑張ります!」
「今のままで充分頑張ってるよ、エレンは。」
「名無しさんさん〜」

母親に甘える子供の様にエレンが抱き着いてきたので、私はヨシヨシとその頭を撫でた。

「名無しさん!甘やかすなよ!!」

オルオが何か言ってるがそれはスルーしてエレンをヨシヨシと撫で続けた。私には歳の離れた弟がいて、エレンを見てると久しく会っていない可愛い弟を思い出して無性に懐かしくなるのだ。

「あの、名無しさん?そろそろエレンから離れた方が……」

私の後ろの方を見ながら、ペトラが焦った声を出す。
 何だろう?と思った瞬間、背後からとんでも無い殺気を感じた。

「おい……。何してやがる。」

その声が真後ろから聞こえた瞬間、エレンが私の胸に埋めてた顏を慌てて上げた。
 私も急いで後ろを振り返ると、目元に影を作って殺人者の様な形相で私とエレンを見下ろしている兵長が居た。

「り、リヴァイ兵長……。」

あわあわ、と唇を震わすエレンの髪をリヴァイ兵長はガっと掴むとそのまま引っ張り上げた。小さな呻き声を上げてエレンが立ち上がる。

「なぁエレン。誰の許可を得てこいつの胸を借りてるんだ?」
「うっ……すみませんっ」

兵長の余りの形相に私は慌てて彼を止める。

「兵長!エレンを離して下さい!大体許可って何ですか!?」

そう言ったら、兵長はパッとエレンを離し、今度は私の腕を掴んで引っ張り上げてきた。全く何て力だろう。簡単に私の体は持ち上げられてしまう。

「お前、ちょっと来い。」

すいません、と頭を下げるエレンと、またか……という顏で見送るリヴァイ班の皆に助けてと目で訴えるも、ここでは兵長がルールであり、当然誰も助けてはくれない。
 結局私は抵抗も出来ないままズルズルと兵長に引き摺られるのだった。


 しかし、何故厩舎の裏なんだろう。これじゃまるで怖い先輩に呼び出された後輩の図である。まぁ、怖い先輩である事には変わりないか……。
 兵長は相変わらず不機嫌な顔のままで私を壁に押し付けると逃げれない様にか私の肩のすぐ隣に手を付いてきた。
 そんな事しなくても逃げないっていうか逃げれるわけがないのに……。

「おい。名無しさん。何でさっきエレンと抱き合ってた。」
「だ、抱き合ってたって変な言い方しないで下さい。普通に可愛がってただけです。」
「可愛がってたって何だ。」

何故そんなに怒るのか、兵長の心情が理解出来ずに思わず口から溜息が漏れた。すると、それを聞き逃さなかった兵長の手がガシッと私の頬を乱暴に掴んだ。

「何溜息吐いてんだてめぇ。」
「ご……ごえんあひゃい」

内頬に奥歯が喰い込んで痛い。涙が出そうだ。
 パッと手を離されて、傷む頬をスリスリと擦った。

「兵長。何でそんなに不機嫌なんですか?」

そう聞けば、チッと舌打ちが返ってくる。

「それが分からないてめぇが異端だ。自分の女が他の男と抱き合ってて怒らない男が何処にいる。」
「で、ですから、抱き合ってたわけじゃないです。」
「俺から見たら抱き合ってる様に見えた。」
「エレンの事はそういう感じで見てません。」

そう言ったら兵長は私の体に自分の体を押し付けて、壁との間に私を挟む様にしてきた。

「おい、名無しさんよ。じゃぁ仮に俺がそうだな……ペトラとさっきのお前とエレンみたいに抱き合ってたらお前は平気なのか?」
「それは駄目です!!」

想像するだけで、胸が掻き毟られそうで私は慌てて首を横に振った。

「だろうが。じゃぁ何でお前とエレンが抱き合ってたのは駄目じゃないのか?」
「だから、それはっ……」

言いかけた時、兵長の唇が私の口を塞いできた。チュッとわざとらしく音を立てて兵長は少しだけ唇を離すと、鼻と鼻がくっつくぐらいの距離で私を見つめ、言う。

「『それは』なんだ?てめぇの持論を聞いてやろうじゃねぇか。」

灰色の瞳は一見冷たいのに、何処か情熱的で、私の大好きな彼の目だ。

「あの、だから……。兵長もご存知でしょう?私には弟が居て、エレンはまるで弟みたいで、ペトラと兵長が抱き合うのとはわけが違います!」

そう言ったら、再び兵長からのキスが私を襲う。下唇を食む様にして吸いつかれると、貪欲な私の体はザワザワと騒ぎ出す。

「俺にはそんなの関係ねぇ。お前とエレンは血の繋がりも無い男と女だろうが。」
「そうですけど、私が男として意識してるのは兵長だけです……よ?」
「だから、お前の気持ちがそうでも、俺の気持ちが穏やかじゃねぇ。何度言えば分かる。」

三度目の口付けで兵長は私の唇を割ってぬるりと舌を侵入してきた。
 まるで、内に秘めてる感情を剥き出す様な荒々しいキスで口の中を支配されて、呼吸の自由すらも奪われて、苦しいはずなのに全身は嬉々として彼の感情を受け入れている。
 互いの荒い呼吸が漏れて、混ざり合った二人の唾液が一筋、ツーと私の口の端から垂れた。
 兵長がようやく私を開放すると、口の端に垂れた唾液をズルリ、と舐めた。
 
「名無しさん。分かるか。俺は嫉妬深い。お前が思っている以上にな。お前が他の男に抱き着かれても見逃せる様な心は持ってない。」

 強くて、冷静で、誰からも尊敬される私の恋人は、実はとても嫉妬深い。
 貴方以外に愛する人なんているはずないのに、一体何がそんなにこの人を不安にさせるのだろうか……。
 
「兵長、私は兵長の恋人ですよ。幾ら兵長が嫉妬しても、私の心は兵長しか見てないです。」

どんな言葉をかければ、彼を安心させられるのだろうか。
 兵長の手が私の首をグッと押さえると、耳朶に噛みついてきた。

「ひゃっ……」

耳を這いずり回る兵長の舌がくすぐったくて心地良い。それとは逆に首を押さえつけている手はグッと力を入れてきて、圧迫感に苦しくなる。
 彼の不安が解消されるなら、このまま絞め殺してくれても良い、とさえ思う。
 
「愛してます……兵長。」

 そう告げると、兵長の手の力がスッと抜けて首の圧迫を開放すると、今度は私のシャツに手を掛けた。
 プチ、プチ、とシャツのボタンを兵長は外して、私の首筋に噛みついてきた。
 チク、と心地よい傷みが首を刺激して、そのまま彼に身を委ねたいという女のとしての欲求を何とか保っていた理性で押さえつけて、シャツの三つ目のボタンを外そうとしていた兵長の手を止めた。

「兵長。駄目です。これ以上は……」
「何故だ。今すぐお前が欲しい。」
「だってこんな場所で、誰か来るかもっ……」

再び首を刺す刺激に声が詰まる。制止していた私の手をやんわりと払いのけると兵長は、三つ目のボタン、四つ目のボタン、と外して行く。

「見せつけてやれば良いだろ。」
「そんなっ……やだっ」
「ヤダじゃねぇだろ。俺を苦しめた罰だ。たっぷり愛してやるから喜べ。」

首に吸い付いていた唇をずらして、兵長は鎖骨のもっと下、女性を主張する膨らみに唇を寄せた。
 新たに与えられた刺激にもう好きにしてくれと体の力が抜けていく。
 降り注ぐ快楽の渦が私の中で残っていた理性をゆっくり手放していく。
 走り去って行く足音が耳に届いた気がしたが、もう、そんな事、どうでも良いと思えた。

「兵長っ…。愛してます。兵長。」
「兵長、じゃねぇだろ……」
「ああっリヴァイ……」

 貴方が求めれば何時だって、何処だって、私は貴方を受け入れる。
 
 
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