企画物BOOK

□君に会いに
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「今此処を通りかかったら、コイツが1人で掃除をしていた。聞けばコイツの意志らしいが、お前は知っていたのか」
「はっ……」

否定なのか肯定なのかよく分からない返事をして、ルークは小走りでマホの側へと駆け寄った。

「マホ。君はまた、何故皆と協力して作業をしないんだ?」
「皆とすると、私の仕事が分からなくなるんです」
「分からない事は聞けば良いと何度も言ってるだろ」
「…………」

ほとほと困ったという感じで、ルークはマホを見ている。
何故自分はこんな部下の上司なのだろうか、と声にならない叫びがルークの胸の奥から聞こえてきている気がした。

「おい。ルーク。とにかく他の兵士達にもしっかりと言っておけ。多分コイツにだけ言っても意味がない」
「はい。御助言感謝します。どうもすみませんでした。」

丁寧にルークが頭を下げ、それを真似る様におずおずとマホも頭を下げた。
まだ色々と気になる事はあったが、今は言うべきじゃないだろうとリヴァイは諦めて、部屋を後にした。


その夜、やはり夕飯の時間に厩舎に行けばマホはポツンとリヴァイの馬の前に立っていた。
リヴァイが初めて彼女の姿を厩舎の前で見てから、今日で3日目だ。やはり、毎日彼女は此処に来ているのだろうか。そう思えば思うほど、彼女の孤独な部分が膨らんでいる気がして、リヴァイは複雑な気分になった。

「今日、君のご主人に掃除の時間に色々言われちゃったよ」

どうもしょげているらしく、いつも以上に声に覇気が無い。

「おまけにルーク班長にも色々言われるし、班の皆も……。分かってるよ。私がいつも勝手な事するのが駄目だって。でもさ、でも……私、ずっと1人ぼっちだったから。訓練生の時も、今も……。分からないんだよね。どういう風に周りと接していけば良いかなんて。」

そう言うマホを慰める様に、馬は彼女の体に頭を摺り寄せた。
ウフフ……と小さく笑って、彼女は馬の鬣を撫でる。

「君は優しいね。私みたいな落ちこぼれに……っ」

そこで、彼女の声が詰まった。
ヒクッヒクッと喉が鳴る音に、リヴァイはギョッとして彼女をよく見ようと物陰から身を乗り出した。

「またっ……班の皆に迷惑かけちゃったよぉっ…………」

震えた声でそう言って、マホは口元を覆って嗚咽しだした。

「おいっ!!」

突然現れた人物とその声に、マホは一瞬泣くのを止めて全身を硬直させた。
リヴァイが手に持った蝋燭の火に照らされたマホの顏は涙でグシャグシャに濡れている。

「リヴァイ兵士長っ」

明らかに「会いたくなかったのだ」という表情をされて、フツフツとした苛立ちがリヴァイの蝋燭を持った手を震わせる。

「あ、の……。何か御用でしょうか」
「それはこっちのセリフだ。人の馬の前で何してる」
「すいません。もう行きますから」

手の甲で涙を拭い、小走りでその場を立ち去ろうとするマホの手をリヴァイは強く掴んだ。

「誰が行って良いと言った」

至近距離でリヴァイに睨まれたのが怖かったのか、マホの瞳からは再び涙が溢れてくる。

(俺が泣かしてるみたいじゃねぇか……)

「おい……少しお前に訊きたい事があるんだ。」
「うっうぇっえっ……」

マホからは返答は無く、ただ嗚咽だけが口から漏れているが、リヴァイは構わず質問を続けた。

「何故、夕飯を此処で食べてるんだ?」
「うっ……だってっ人と食べるのは嫌いなんです」
「お前の事を部下から少し聞いた。訓練生時代に同じ班の奴等と色々あったらしいが、それが関係しているのか」

一層激しくマホが泣き出すので、リヴァイは渋々とポケットから白いハンカチを取り出して、彼女の顏を乱暴に拭った。そうしてから彼女の手にそのハンカチを持たせると、リヴァイは続けて尋ねる。

「今の班の兵達に何か言われたりするのか」

その質問にはマホはブンブンと大きく首を横に振った。

「言われません。でも、私は落ちこぼれだし、皆に迷惑かけるから……訓練生時代は、私が駄目だから皆に迷惑かけて、だから、皆に嫌われて当然だから。今も嫌われててもしょうがないから……」
「誰がお前を嫌ってるって言ったんだよ。訓練生のガキの集まりと調査兵団の組織を一緒にしてんじゃねぇよ」
「でも……どうやって人と仲良くなれるのかも分からないし。それなら1人でいる方が楽だし。」
「馬にはあれだけ話せるのにか」
「だって馬はっ……人じゃないし」
「今、俺にも色々言ってるじゃねぇか」

そうリヴァイが言えば、マホは「あ…」と口をポカンと開けて、目の前のリヴァイを見た。

「無理に周りと仲良くしろとは言わねぇが、お前は違うだろ。同じ班の奴等の事だって、嫌いじゃねぇはずだ。俺に見つかった時に必死で庇おうとしてたしな」
「別に……特に意味は。それに、今までそんなに困る事も無かったし……」
「困る困らないの問題じゃねぇよ。調査兵団は個人プレーを許してる組織じゃねぇんだ。そんな組織にお前は居る。そして、俺に見つかった。もう勝手な行動は認めない。いいな」

マホは眉をハの字にして、悔しげに下唇を噛んだ。

「馬と飯が食いたいならそれは好きにしろ。掃除と訓練に関しては、周りと協力出来る様にしろ。少しずつでいい。それから……毎日誰かと1言でも良いから話せ」
「話す……?」
「ピンと来ねぇなら俺が毎日話しかけてやる。何か話題を探しとけ」
「あ、あの、リヴァイ兵士長。私は別にそんな事をされる義理は……」
「てめぇは義理があって俺の馬と毎日飯を食ってたのか」
「う……」

たじろぐマホの頭をコンと軽く突いて、リヴァイは少し頬を緩ませた。

「俺は、気になった事はとことんまで追求しないと気が済まねぇんだ。今はお前のその陰気臭い性格を何とかしたい事で頭がいっぱいだからな。覚悟しとけ」

人の事が嫌いなわけじゃない。
嫌われるのが怖いから最初から近付かない。
そんな私に近付いてきてくれた
優しい、優しい人……。

誰かを想って胸がドキドキとするという事を、マホは生まれて初めて知った。

「リヴァイ兵士長はやっぱり凄い人なんですね」
「?よく分からねぇが、その不細工な泣きっ面が治まるまでは此処にいろよ。それまで付き合っといてやる」

まだもう少し……

君の事を知りたい―…。


―END―


↓↓お礼文&後書き↓↓
リクを下さった読者様、読んで下さった皆様、どうも有難うございます。
『兵長以外になつかない馬が夢主にはなついているのを見て夢主を気に掛ける様になる兵長』という内容のリクを頂き、こんな感じのお話しにさせていただきました。
恋愛というよりは、素敵な上司と部下という感じになった気もしますが汗)
夢主の性格については特に希望は無かったのですが、『馬にグチを言う夢主』という構図が私の中で何処か孤独に思えまして、こんな感じの夢主になりました。
一度人に裏切られたり、酷い目に合されたりしてしまうと、なかなか人を信用出来なくなってしまいますよね。何となくそんな不器用な夢主を書いてみたくなりました!
ここまで読んで下さった皆様、素敵なリクを下さった読者様、どうも有難うございました。
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