企画物BOOK

□ウイルス
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「だめ!寝て下さい!」
「別にどうって事ない。ただの風邪……」
「あ!ほら、今フラッとしたじゃないですか!駄目です!」

塵1つ見つからない程に綺麗に掃除されている部屋の中で、マホはリヴァイの手に握られているハタキを取り上げようと、柄を掴んでいる。
 今日の訓練中、リヴァイの動きが鈍かった。鈍い……とは言っても、周りの兵士よりも俊敏な動きではあったのだが、それでも直近の部下であり恋人でもあるマホには、彼の体調不良などお見通しだった。
 リヴァイの額に手を当てたマホは、感じた熱に小さな悲鳴を上げ、エルヴィンの許可を得た後、リヴァイを彼の自室まで強引に連れていった。
 安静にしてもらう為に自室に連行したというのに、何が気になるのか、掃除の必要のなさそうな室内の掃除を始めようとするリヴァイを慌てて止めているというのが今の状況だ。
 
「煩いやつだな。お前は俺の保護者か」

渋々とハタキを手放して、リヴァイは気怠そうな顔でそう言い、マホはやっと取り上げる事が出来たハタキを隠す様にその手を背中に回しながら大きく頷いた。

「だって兵長、私がこうやって言わないと普通に動き回るじゃないですか」
「人を落ち着きのねぇガキみたいに言うな……」

それでもマホが食い下がる様子が無いのが分かると、リヴァイは嫌々、本当に嫌々といった表情で眉間に皺を寄せ、クローゼットから寝間着に使っているシャツを取り出し、普段よりも鈍い動きで制服を脱ぎ出した。
途端にマホが慌て出す。

「へ、兵長!!ななな何で脱ぐんですかっ!?」
「何言ってやがる。服も着替えずにベッドに入れるか」
「そ、それもそうですけど……」

顔を真っ赤にしてゴニョゴニョと言っていたマホは、リヴァイがシャツのボタンを全て外したところで、クルリと背を向けた。リヴァイの方を向いている彼女の背中に隠れていたハタキが恥ずかしそうにユラユラと揺れている。
リヴァイの裸を見るのは初めてではない。恋人という間柄なわけで、当然愛を確かめ合う行為は何度もしている仲だ。それでもマホは毎回恥ずかしそうに頬を染め、リヴァイの逞しい体を直視しない様に目を背けていたのだった。そしてそれは今も同じで……

「何興奮してるんだ。お前は……」
「こ、こ、興奮なんてしてません!」
「……まぁいいが」
「いや、だから、してませんから!早く着替えて下さい!」
「もうとっくに着替え終わってる」
「あっ……えぇっ?」

マホが振り返れば、とっくに寝間着に着替えたリヴァイがベッドに横たわろうとしていた。
スタタッと小走りでマホはベッドに駆け寄ると、掛け布団を掴み、横たわったリヴァイに被せようとした。

「……自分で出来る」

そういう事をされるのは慣れていないのか、リヴァイは眉間に皺を寄せた困り顔でマホに抗議する様に言ったが、逆にそれが新鮮味を帯びていて、マホはリヴァイに布団を掛けると、まるで母親が子供にするそれの様に、掛けた布団の上からポンポンと手の平で一定のリズムをとりだした。

「兵長。良い子だから寝ましょうね」
「てめぇ、ナメてんのか」

リヴァイの額に青筋が立つのを見て、これ以上は身の危険を感じ、マホはスゴスゴと手の平を布団から退けた。ベッドから離れ、うんしょ、と伸びをすると、自分の役目は終わったとばかりに部屋を出て行こうとした。

「おい」

扉に手を掛けようとするマホの背後から、リヴァイの不機嫌そうな声がかかり、ピタ……と足を止めてマホは首だけをベッドの方へと向けた。
 ベッドの上で布団から顔だけを出しているリヴァイが、やはり不機嫌そうにマホを睨みながら言った。

「何処へ行く」
「何処って……とりあえず兵長を安静にさせるという任務を終えたので、業務に戻ろうかと……」
「何言ってやがる。此処にいろ」
「はい!?」
「お前が居なくなると暇だ」
「暇って……寝て下さいよ」
「こんな明るいうちからいきなり寝れるか」

確かにそうでしょうけど……とボソボソと呟きながらマホは、とりあえず部屋に留まる事に決めたらしく、リヴァイの仕事用のデスクの椅子をベッドの脇まで引っ張り出してきて、チョコン、と腰掛けた。
 不意にゲホゴホとリヴァイが咳き込み、マホは慌てて椅子から少し尻を浮かせたが、どうすれば良いのか分からない……といった様子で中途半端にお尻を浮かせた体勢のまま制止した。上体が、微妙にベッドの方に前のめりになっている、その状態で、目が合ったリヴァイの三白眼の瞳がキラリと悪戯に光った。
少し上体を起こしたリヴァイは、無防備に垂れ下がったマホの腕をグイと掴むと、ベッドの方へと引き寄せる。前のめりになっていた為に、上手くバランスも保てず、マホはリヴァイに引っ張られるままベッドの上、それも彼の体の上に倒れ込んだ。

「わっ……ちょっ……と、兵長、いきなり引っ張らないで下さいよもう。」

乗っかってしまった形になっているリヴァイの体の上から身を退けよと試みるが、悪戯な彼の手がマホの背中を、腰を、這いずり回る様に遊び出したかと思うと、マホの足元にまで手を伸ばし、彼女の履いているブーツを両足とも器用な手付きで脱がし、ベッドの下に落とした。
 ボスン、ボスン……と床に着いたブーツが鈍い音を鳴らす。

「兵長!!何してるんですか、もう……」
「暇だ。相手をしろ」
「子供みたいな事言わないで下さい。兵長、風邪引いてるんですよ?」
「看病しろ。命令だ」
「いやあの……」

恋人であり上司である男からの命令となれば、当然従うのだが、今現在、彼の上に乗ってしまっている状況は看病とは程遠い。

「兵長、とりあえず手、離して下さい。これじゃ看病も出来ないです」

抗議する様にマホが言えば、リヴァイはマホを上に乗せたまま、ゴロリと寝返りをうった。必然的にマホはリヴァイの隣に並んで寝転がる形になり、背中に回された彼の手にグイッと抱き締められた。

「兵長っ……」

文句を言おうと、彼の呼称を口にしたが、密着した体から伝わる彼の熱に、首筋にかかった彼の吐息の熱っぽさに、それ以上の言葉が出ずに、ゴクン……とマホは反発心を飲み込んだ。

「マホ……」

いつもより少し掠れた声で、縋るように名を呼ばれ、ドクン、とマホの心臓が甘く鳴いた。

「俺に、安静に寝ててほしいなら、しばらく大人しくしてろ」
「は……い」

この人には敵わない……。

熱い腕の中、彼の熱と鼓動の響きを感じながら、マホは諦めた様子で瞳を閉じた。

だってそれは、いつだって威風堂々としている彼なりの、強気な甘え方で……。

きっと私以外にはこんな事は言わない。

風邪のウィルスが強い貴方をほんの少しだけ弱らせている今だけ……。




「何?今度はマホが風邪か?」

次の日、看病(?)が効いたのか、すっかりいつもの調子のリヴァイとは対照的に、熱っぽい顏でゲホゲホと咳き込んでいるマホを見て、ナナバが呆れた様子で聞く。

「いやぁ……恥ずかしながらそうみたいですね」

グスッと鼻を啜りながら答えたマホにナナバが意地悪く口角を上げて言った。

「リヴァイの看病で密着しすぎたか?」

ボンッ……と瞬時に紅くなったマホの顏は熱の所為だけでは無さそうだ。
 
「な、な、何言ってるんですか!ナナバさん!!」
「ん?何が?冗談のつもりだったんだけど、その反応だと本当っぽいね」
「ナナバさん〜〜っ」

ますます顏を真っ赤に染めていくマホを見て、ナナバは面白いおもちゃを見つけた子供の様にニンマリと笑うのだった。

―END―


↓↓お礼文&後書き↓↓
(お名前が記載されていなかったリク者様につきましては、『読者様』という表記をさせていただいております。)

レヴィア様、読者様、そしてそして、読んで下さった皆様、有難うございます。
【風邪を引いた兵長】
というリクを2つも頂いておきながら、upが遅くなってしまい申し訳ございます。
普段の兵長が見せない寂しがり?な感じとかを感じていただけたら光栄です。
強気な甘え方とかに弱い管理人です汗)
リクエストしていただけたおかげで、そんな兵長を書かせてもらえました!
素敵なリクを下さったレヴィア様、読者様、そして、ここまで読んで下さった皆様、どうも有難うございます。



 
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