企画物BOOK

□ヤドリギ
1ページ/3ページ

 今日の訓練を終え、自室へと戻ろうと廊下を早足で歩いていたマホは、前方から歩いてくる3人の兵の姿にハッとして廊下の真ん中を歩いていた体を端に寄せた。兵団内のトップ3が揃って歩いていればマホで無くとも、一般兵は皆同じ行動をするだろう。
 廊下の壁に背をつけて、彼等が通り過ぎるまでマホは敬礼のポーズで立っていた。

「お疲れ様です」

前を通り過ぎる時にそう声を掛ければ、一人は「ああ。お疲れ様」と紳士的に返し、一人はスンッと鼻を鳴らし、僅かに頷いた。
 そしてもう一人は、何も言わずにチラッとマホに視線を向けた。三白眼の鋭い瞳が、二度、瞬いた。それを確認して、マホはゆっくりと瞬きを一度する。閉じた瞳を開けば、こちらを見ていた三白眼の瞳がサッと逸らされる。
 そして、何事も無かったかの様に彼を含んだ三人はマホの前をすんなりと通り抜けて行った。

 夕飯も終え、各々が自由な時間を過ごしている中、マホは小さな体を更に小さく見せる様に上体を屈めながら、廊下を小走りに進んでいた。
 やがて、一つの扉の前で立ち止まり、大きく深呼吸をしてからコンコンとノックをした。

………………………………。
…………………………。
……………………。

しばらく待っても応答が無く、不安気に眉を潜めてはもう一度、控えめにノックをする。

…………………………。
……………………。
………………。

やはり、応答は無い。

合図を勘違いしたのだろうか……。

と、マホは首を傾げた。けれども、数刻前に確かに彼は瞬きを二度したし、それを了承した合図をマホも返した。そして彼は確かにその合図を見届けてから視線を逸らしていたはずで。
 そう考えるものの、目の前の扉が開く事は無く、残念そうな溜息を吐いてもう戻ろうかと考えた時、カツカツと廊下に早足で歩く音が響いた。
 その音が近付いてくるにつれ、早足で歩いてくる人物の姿が見えてきて、マホはホッとした様に肩を下げた。
 カツカツと歩いて来た人物は、マホの目の前でピタッと立ち止まる。

「悪い。会議が長引いた。」
「いいえ。お疲れ様です。」

勘違いでなくて良かった、とマホは安心した様に笑い、彼がガチャリと扉を開けた後に続いて部屋に入った。

 調査兵団の兵士長であり、人類最強の兵士と言われているリヴァイと、調査兵団の一兵士のマホ。二人が恋人であるという事実は、当の本人以外は誰も知らない。
 同じ組織の上司と部下という関係では、実は恋仲であるという事が周りに知られると色々と業務がやり辛い。それだけでは無く、リヴァイは兵団内で尊敬されている立場で、憧れを抱いている女性兵士も少なくは無い。
 抑えられない気持ちを伝えて玉砕した女性兵士も何人かいる。
 全く女の噂が無い上に、誘ってくる女性にも見向きもしない彼は、今では『女に興味が無いのでは』と秘かに兵団内で噂になっているほどだ。
 勿論それは、ただの噂であり、実際にはちゃんと恋人はいるが……。
 そんな訳で、二人は周りには気付かれない合図を使い逢瀬を重ねていた。とはいっても、誘いの合図を送るのはいつもリヴァイからと決まっていて、リヴァイよりも時間の自由が効くマホはその合図を受け取る。 
“今夜部屋に来い”

と、リヴァイが誘う時は、二度、瞬きをする。それを了承したらマホはゆっくり一度、瞬きを返す。
 声を出さず、相手の体に触れる事も無く、そして周りから不自然にも思われない合図は、誰にも悟られる事は無く、二人は恋人の時間を過ごす事が出来た。


「今日は、会議、長引いたんですね。」

 マホがいつもリヴァイの部屋を訪れる時間は大体決まっていて、今日もそれは同じだった。いつもならとっくに部屋に居るであろう時間に、ようやく帰ってきたリヴァイの顏は何処か疲れている様で、マホは心配そうに彼の表情を伺う。

「ああ。予算の事で上がピーピー煩ぇらしい。」

忌々しげに口を歪めてそう言うリヴァイに、
同調する様に頷きながら、マホは彼の部屋の戸棚から呑みかけの酒瓶を一つ、取り出すと、グラスを手にしてリヴァイの座るソファへと戻った。
 ソファの前のテーブルに、二つのグラスを並べると、酒瓶を傾けトクトクと注いでいく。
 
「お疲れ様です。」

カチン、と互いのグラスをぶつけ合い、その音を合図の様にリヴァイは顰めていた眉を僅かに穏やかにした。
 恋人とはいえ、彼女は部下であり、上司としての威厳を捨て切れないのか、鋭い眼光とヘの字に歪められた口元は綻ぶ気配は無い。
 マホも、幾らリヴァイが恋人とはいえ、上司である事には変わりないので、何処か緊張した表情は崩さない。
 それでも、二人きりで過ごせるこの時間は、マホにとってもリヴァイにとっても大切で、安らげる場所だった。

 特に会話が盛り上がる事は無いままに、晩酌は進み、30分程過ぎた頃にマホは、変だな、と首を捻った。
 変……というのは、隣にいるリヴァイの事で、まだグラスを3杯しか空けていないのに、どうも虚ろな瞳をしている。元々三白眼の目が、更に白目の割合が多くなっている気がした。

「あの、兵長……?」

心配になってマホがそう声を掛けたとほぼ同時に、リヴァイが頭を傾け、マホの肩にゴン、と預けてきた。

「へ、兵長!?大丈夫ですか!?」

リヴァイが自分に頭を預けてくる事など、今までの一度も無かった。具合が悪いのではないかと、ますます慌てるマホにリヴァイは少し面倒臭そうに、チラッと目だけを動かしてマホを睨んだ。

「大丈夫だ。……少し、疲れてるだけだ。」

そう言ってから、「もういい」と三分の一程酒の残っているグラスをマホの手に押し付けた。
 そのグラスをソッとテーブルに置くと、マホは自分の肩に頭を預けているリヴァイを見下ろした。
 いつもとは逆の立場がどうも不思議で、こそばゆい。
 そもそも、マホがリヴァイに甘える事はあっても、リヴァイがこんな風に甘えてくる様な事はまず無いのだ。彼をそうさせてしまう程に疲労が溜まっているのだ、と思うと、こうして会っている時間も彼の負担では無いのかと思い、マホは申し訳無さそうに言った。

「すみません。兵長。もうお休みになった方がいいですよね。私、部屋に戻ります。」

リヴァイの頭が動き、マホの肩から離れた。そして、クルッと体をマホの方に向けると、リヴァイは眉を寄せ、やはり疲れの見える瞳で彼女を睨んだ。
 
「何言ってる。戻らせねぇぞ。」
「えっ?」

ポカンとするマホに覆い被さる様にして、リヴァイはそのまま彼女をソファに押し倒した。そして、今度はマホの胸に頭を預け、頬ずりをする様に顏を動かした。

「へ、兵長!?」
「分かってねぇな。お前は……」
「えっと……?」
「お前といる時が一番癒されるのに、一人で寝ろとか言うんじゃねぇよ。馬鹿野郎」

一人で寝ろと言った訳では無いけれど……と思いながらも、拗ねた様な口振りで言うリヴァイが可愛くて、言われた言葉が嬉しくて、マホは頬を緩めた。
 フフッとマホが笑った事で、彼女の胸が震え、その振動にリヴァイは埋めていた顏を上げて、ムスッとした表情でマホを睨んだ。

「何笑ってやがる……」
「だって……。兵長がそんな事言うのが、珍しくて……」
「馬鹿言え。俺は元々―…」

ふわり……とマホの手が頭を撫でてきて、リヴァイは驚いた様に口を閉じた。
 サワサワサワサワと、まるで動物の頭を撫でる様な手付きで撫でられて複雑な気持ちになりながらも、心が解される癒しを感じてリヴァイは瞳を閉じた。
 この、心地良くも擽ったい感覚を抱いたまま、ふわふわとしたマホの胸に顏を預けて意識を手放してしまいたい、と思う自分と、マホを感じたいと思う自分が心の中で入り交じり、どっちの感情が勝つか、確かめる様にリヴァイは片手をマホの胸の上に置き、感触を確かめる様に揉んでみる。
 厭らしいというよりは、甘える様な手付きで胸を揉まれて、マホはどう反応をすれば良いのか分からず、とりあえず、とリヴァイの頭を撫で続ける。
 片や胸を揉み、片や頭を撫で、と何とも不可思議なこの状態から、先に動きを見せたのはリヴァイだった。

「マホ。ヤるぞ」

言ってリヴァイはマホの体から上体を離すと、彼女をヒョイと担ぎ上げ、ソファからベッドへと移動させた。

「えっ!?兵長疲れているんじゃ……」
「ああ……だが、ヤリたいらしい。」
「へっ!?」

マホの胸を触っていたら、彼女を感じたいという心が勝ったのだ。素直に反応を見せた自身の事を言ったリヴァイだったが、マホは他人事のようにリヴァイが言うので、訳が分からないという様にオロオロし始めた。
 そもそもリヴァイは、疲れていると言っていたわけで、事実いつもよりも表情にも疲れが見えている。だからマホとしては、彼の疲れを少しでも癒やせたらと思っていたのだが、突然行為を要求され、嫌なわけでは無いが、今する事じゃないだろうと戸惑うのだ。

「ちょっ……兵長、待って下さいっ」
「何だ?」

慣れた手付きでシャツのボタンを外してくるリヴァイを慌てて止めようとするが、リヴァイはマホの手をやんわりと払い退けながら、止める気は無さそうにそう問う。

「無理しない方が……」
「無理などしてないが。」
「でも、兵長っもう若くないんですかr――……」

言った直後に、リヴァイの眉が不機嫌そうにピクッと動いたのを見て、しまった……とマホは自分の口を手で抑えたが、すでに鋭い三白眼の瞳が、ジッと睨んできて、マホは十字架に張り付けにされた様に動けなくなった。

「若く……ないと?」
「い、いえ……。嘘です。冗談っ――…」

口を押さえたまま、ブンブンと首を振るマホの、手をグイッと掴んで押さえている口元を外させると、リヴァイは彼女の唇に自分の唇を重ねた。
 いつもよりも乱暴なキスをしながら、リヴァイはマホの首筋に、スーッと指先を這わせた。それだけでビクッと反応を見せるマホから唇を離すと、リヴァイは意地悪く口角を上げて、挑発する様に彼女に言う。

「なら、俺よりも若いお前は、先にへばるなよ?」
「…………」

引き攣った笑いを返すマホに、満足そうに目を細めると、リヴァイは彼女の体をグルリとうつ伏せにさせて、シャツを剥ぎ取り、ブラのホックも外した。

18歳未満の方はこちらへjump

 
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ