企画物BOOK
□オフタイム
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カラネス区で一番の繁華街。気怠そうに歩くリヴァイの隣でしっかりと腕を組みながらマホは通り過ぎる店のディスプレイに次々と視線を移しては瞳を輝かせている。
「あ、今のアクセサリー店に飾られてたネックレス可愛かった……ああっ!この雑貨屋さんのペーパークラフトも素敵……」
そんな言葉は全く聞こえていないとでも言いたげに、スタスタと歩き続けるリヴァイをマホは面白く無さそうに睨んだ。
「もう、何で無反応なの?」
「てめぇの胸に聞いて見ろ。」
「へ?」
本当に何も分からない様な返答が返って来て、リヴァイはチッと大きな舌打ちをした。
1ケ月振りにリヴァイとマホの休みが重なり、久々にデートをしようと街まで出てきた。そこまでは別に良かった。リヴァイもマホが久々の外出とデートに嬉しそうにしているのを見るのは気分が良かったし、リヴァイ自身も楽しいと思えていた。
だが、通り過ぎる店のディスプレイにめぼしい商品を見つけると、「可愛い、美味しそう、素敵」等という声がマホから飛び出し、「なら買ってやろうか」とリヴァイが声を掛けるも、マホはまた違う店の商品に目を奪われ、「あれも良い、これも良い」とはしゃぐのだ。互いに一方通行なそのやり取りが3度続いた時、リヴァイは「もう知るか」と不機嫌に眉を寄せ、それでも組まれた腕はそのままにマホの隣を無言で歩いていたのだ。
それなのに「何で無反応なの?」なんて事を聞かれれば、苛立ちを通り越して呆れた。
「あっ、あれも可愛いっ……ッ…痛っ、何で叩くの?」
再び別の店の商品に目を奪われているマホの頭をパシッと軽く叩けば、ブゥッとマホは頬を膨らますのだった。
「注意力散漫すぎなんだよ、お前。マホよ。」
「う、うん?」
リヴァイが叩いた箇所をポリポリと掻きながら、小首を傾げるマホに、またしても戦意喪失させられ、「もうどうでもいい」とリヴァイは首を軽く横に振った。
「腹減った。」
「ああ!私も今丁度それ言おうと!流石、一心同体だね!!」
さっきまで散々人の言葉を無視し続けてくれたくせによく言う……とは思うが嬉しそうにマホがニヘラッと笑うので、やはり「もうどうでもいい」という気分にさせられるのだった。
繁華街の中の小洒落たカフェに二人は立ち寄り、天気も良いので、色とりどりの花やハーブの香りで溢れ返っているテラス席を指定した。
「本当、二人でこうして出かけるのって久し振りだよね。」
ガラストップの丸テーブルに両肘をついて、組み合わせた手の甲に顎を乗せたマホは正面に座っているリヴァイを見つめながら「最後に出かけたのっていつだっけ」と懐かしむ様に目を細めた。
「3ケ月前だ。トロスト区に業務で行った次の日に二人でトロスト区の植物園に行っただろ。」
コーヒーを啜りながらリヴァイが言うと、マホは「ああ、そうだそうだ」と思いだした様に笑って、鳥肉とチーズとトマトのふんわりした白パンのサンドイッチにパクついた。
「確かあの時、リヴァイと喧嘩になったんだよね。」
「喧嘩も何もてめぇが一方的にぶんむくれてたんだろうが。」
ハーブに浸けた豚肉と芋のバゲットサンドに齧りついて、文句有り気にジロリと睨むリヴァイにマホは下唇を突き出して言う。
「だってさ、リヴァイがアジサイの花の――」
3ケ月前、二人で植物園に行った時、丁度アジサイの咲く時期で、その植物園ではアジサイが主役のイベントが催されていた。美しく咲いているアジサイにマホは瞳を輝かせ、リヴァイは連れて来て良かったと確かにそう思った。
そして、そろそろ帰ろうと言う時に園内の売店で、マホが見ていたアジサイを模したカブトピンを買ってやろうかと言うとマホはたちまち不機嫌になったのだ。
むくれるマホが言うには、アジサイの花には浮気や別れを意味する花言葉があるらしく、それをモチーフにしたアクセサリーを彼女に贈るなんて信じられないという事らしかったが、リヴァイからすれば、ただ欲しそうに見ていたのを買ってやろうと思っただけであって、花言葉なんてものは知らなければ、勿論浮気や別れなんて考えた事すらない。被害妄想にも程がある、と呆れるも植物園を出て夕食のレストランに入るまで彼女の機嫌は治らなかった。
「そもそもいつも人の話をちゃんと聞かねぇお前が悪いんだろうが。」
「それね、よく言われるけど、私ちゃんと人の話は聞く方だと思うんだけどなぁ……」
どこがだ……と、呆れながらリヴァイは、のんびりした顔でハーブティーを飲んでいるマホを見て溜息を吐くのだった。
昼食を済ませ店を出れば、マホはまたしても通り過ぎる店に瞳を輝かしては感嘆の声を上げている。
「あっ!!」
インテリア雑貨の前を通った時に、マホは初めて足を止めた。そして、入ろうと言う様にリヴァイの腕を引っ張るのでリヴァイは半ば連行される様にマホに続いてその店の中へと入った。
一直線にマホが向かったのは大小様々なクッションが陳列されている棚で、幾つかのクッションを手に取っては悩んでいる。
「何だ?買うのか?」
マホが手にしているのは真っ赤なハート型のクッションで、その傍らの同じ型のピンク色のクッションも手にすると、二個のクッションをリヴァイの前に掲げる様に見せた。
「これ!リヴァイの部屋のソファに置こうよ。」
「は!?馬鹿かお前……」
彼女の発言が余りにも斜め上だったために、思わず大きな声で反論してしまい、周囲の客が一斉にこちらを見た。
バツが悪そうにリヴァイは、マホの手からクッションを取り上げると丁寧に棚に直した。
「何でこんな頭の悪そうなデザインを選ぶんだよ。もっとあるだろ……」
小声でマホに言えば、マホはまた下唇を突き出していた。
「だって、リヴァイの部屋可愛いモノが無いんだもん。」
「無くていいだろーが。三十路の男の部屋に可愛いモンが置いてる方がどうかしてる。」
「彼女がいるんだからいいじゃん。」
「そういう問題じゃねぇよ。馬鹿野郎。大体お前もイイ歳なんだからそんなガキの遊びみてぇなのを欲しがるなよ……」
「おっ……おばさんって言った!!!」
眉を下げて悲壮な表情をするマホに、リヴァイは今日何度目かになる溜息を吐くのだった。