企画物BOOK

□特別看護
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「ネーム、空いてるか。」

カーテンで仕切っただけの診察室から、医師の声が聞こえ、マホ・ネームは「はい」と短く返事すると、診察室のカーテンをシャッと開けた。
 此処は兵士専用の病院であり、マホは此処で働き出して半年になる看護師だった。兵士専用とは行っても、患者は8割方調査兵団の兵士なのだが、ここ1〜2ケ月の間は勿論調査兵団が一番多いのは変わらないが、壁内の巨人の出現などで、駐屯兵団の兵士や、憲兵団の兵士の患者も増えていた。
 普段は診察に使われた器具を洗ったり、患者に渡す薬を用意したり、入院している患者の世話等がマホなのだが、診察患者が余りに多く、ベテランの看護師の人手が足りず、医師は一番手が空いてそうなマホに声をかけたのだ。
 白髪頭の小太りの医師の前に向かい合う形で座っている兵士は、小柄で細い男だったが、何とも威圧感を感じさせる三白眼の鋭い瞳でカーテンから顔を覗かせたマホをギロリと睨んできた。その男の形相に萎縮しながらもマホは医師の次の言葉を待つ。

「ネーム。彼を処置室に連れて行って、塗り薬と包帯の交換を頼む。」

男はズボンの左側をたくし上げていて、足首に包帯が巻かれていた。

「普通に生活する分にはもう殆ど問題は無いね。鍛えているだけやはり回復力も素晴らしい。1週間もすれば包帯も取れるだろう。」

男にそう言ってから、医師は椅子から立ち上がり、緊張した様な顔をしているマホの耳元でボソリと言った。

「彼は、調査兵団のリヴァイ兵士長だ。くれぐれも失礼の無い様にな。」

ポン、と肩を叩かれて、更に委縮しながらもマホはリヴァイの前に立つ。

「り、リヴァイ兵士長。処置室へご案内します。」

足を怪我しているので肩を貸そうかと思って腰を少し折って屈んだが、そんなマホを小馬鹿にする様にリヴァイはスクリと一人で立った。

「さっさと案内しろ。グズ野郎。」

グ…グズ野郎!?

と、今まで他人に言われた事も無い侮辱の言葉にマホはキッと眉を吊り上げたが、先程の医師の
”失礼の無い様に”
という言葉を思い出し、拳を握る事で何とか堪えた。
 処置室は簡易ベッドと椅子とミニチェストが置かれているだけのスペースを、一辺だけは壁で残りの3辺はカーテンで仕切ってかろうじて1スペースごとの個室になっている。全部で15個室が配置されているが、殆どの個室が埋まっていて数少ない空いている個室にリヴァイを案内する。
 カーテンで仕切っているだけの場所では、別の個室の兵士の声や、看護師の声がガヤガヤと聞こえている。
 リヴァイをベッドに座らせて「少しお待ち下さい」と言って個室を後にし、少ししてからマホは薬と包帯と処置に使う器具を手に抱えて戻ってきた。
 ベッドに腰掛けるリヴァイの足元に跪いて、左足首の包帯をゆっくりと外していく。
 細いと思っていたが、無駄肉の無い筋肉質の足を目にして(さすがは人類最強だ)とマホは秘かに思った。
 リヴァイと対面するのは初めてだったが、リヴァイ兵士長と聞けば、壁内で知らない人間は居ない程の有名人だ。意外な程に小柄な事には少し拍子抜けたが、噂に聞く「粗暴な男」というのは先程の言葉で実感していた。
 緊張の為に無意識に手が震えて、マホは数回手を握って開いて、と繰り返した。

「何だお前、慣れてねぇのか。」
「すみません。一人で患者さんの処置をするのは今日が初めてで……。」
「そんな気を張る処置でもねぇだろうが。早くしろよ。」

 機嫌を損ねてしまわない様にと、細心の注意を払って包帯を外していき、露わになった足首を温タオルで丁寧に拭き、ツンとした臭いのする塗り薬を患部に塗り付けて、新しい包帯を巻いていく。

「やけに丁寧だな。」
「本に書いている通りなので、分からないですが……。」
「如何にも慣れない新人って雰囲気が出てるが…お前、名前は何という?」
「はい、マホ・ネームと申します。」

 質問には答えながらも、失礼の無い様に失礼の無い様に……と頭の中で繰り返し作業をするマホの胸にトン、とリヴァイの右の膝小僧が触れた。
 全身に神経を張り巡らせていたために、その小さな刺激にマホはビクッと体を跳ねさせた。

「す、すみません。」

おそらく自分が少し位置を変えた時に、リヴァイの右膝に胸をぶつけてしまったのだろうと思い、マホはペコペコと謝りながら、リヴァイに怒鳴られないかとビクビクしていた。
 リヴァイは何も言わず、マホは顏を上げて彼の表情を伺う勇気も無いので、とりあえずそのまま作業を続行した。
 少ししてまた、トン、と胸に小さな刺激が走る。
 今、自分は体を動かしただろうか……と疑問に思いながらも、マホはまた「すみません」と頭を下げて後は包帯を結ぶだけになった作業を進めた。
 終了、と思った時にまたしてもトン、とリヴァイの膝が胸に当たり、マホはパッと顏を上げると、冷たい瞳でジッとこちらを見下ろしているリヴァイと目があった。
 射抜かれる様な視線に、マホの脳が一瞬、本当に一瞬、全ての機能を停止した。
 その瞬間を見逃さないとでもいう様に、リヴァイはマホの腕をグイッと掴んで膝まずいていた彼女を立ち上がらせ、自分の腰掛けるベッドにグイッと引っ張り上げた。
 リヴァイはそのまま簡易ベッドに仰向けに寝転がり、マホの体を自分の上に覆い被せる様に導く。足の細い簡易ベッドがギシン……と苦しげな音を立てた。
 マホが身を包んでいる、パリッとした「如何にも真面目な看護師です」と言いたげなその白衣の腰のラインを、わざと皺を付ける様にしながらリヴァイは撫でつける。
 突然の事に、何も反応出来なかったマホだが、ようやく自分の身に起こっている事態にマズイと思い、自分が体の下敷きにしている形のリヴァイに小声で言った。

「リヴァイ兵士長、何を――…」

言い終える前に、リヴァイの手に後頭部を包まれそのまま勢いよく唇を奪われる。

「っ……!?…っ」

いとも簡単に口内へと舌を割り入れられ、首を僅かに動かして抵抗しようと試みるも、ガッチリと後頭部を押さえ付けて固定されていて、全く効果が無い。
 スルリと侵入してきたリヴァイの細い舌がまるで蛇の様に彼女の舌に絡みついてくる。
 まるで毒蛇だ…。口内を犯される度に、全身が甘く痺れて、脳内が考える事を放棄しようという様にボヤッと霞んでくる。
 マホに口付けたままリヴァイは、グルリと体勢を変え、形勢逆転、とでもいう様に今度はマホを仰向けに横たわらせ、組み敷いた。
 リヴァイの手が白衣の上からマホの胸を掴み、円を描く様に揉み始め涙目になりながらマホは何度も首を振った。
 チュっと音を立てて、リヴァイはマホの唇を解放すると、彼女の耳元に自分の唇を近付けた。
 
「なぁ、マホよ。闘う事も制限されて溜まってるんだ。いいだろ?」

ボソボソと囁く声に、耳にかかる吐息に、マホは耳も顏も真っ赤にしながらも、同じ様に小声で返す。

「や、止めてくださ……」

プチプチ、と白衣の胸元のボタンを外されてリヴァイの手が衣服の中に滑り込む。ブラの中にも手を入れられて、敏感な場所をクイッと摘まれマホは思わず、「クッ…」と小さな声を漏らした。
 そんなマホの反応にニヤリとほくそ笑みながら、彼女の耳に唇をくっつけたリヴァイは言う。

「声を出さない様に気をつけろよ。」
「えっ、んっ――……」

 甘い声の漏れる彼女の口をリヴァイは再び塞いだ。

 駄目だ、と思いながらもマホは自分の体が恥ずかしいくらいに期待に熱くなっているのに気付いた。男の人にこんな風に体を触られる事など半年以上振りなわけで、懐かしい様な、そして今までに無い興奮の波がマホを本気で嫌だと思わせないのだった。
 しかも相手は人類最強であるリヴァイ兵士長なのだ。医師の言う
”失礼の無い様に”
というのは、こういう事にも応えろという事なのだろうか……と今自分が拒む事を諦めている理由をマホは無理矢理それに結び付けた。
 
 だが、此処は処置室であり、カーテンで仕切られて周りから見えないとはいえ、周囲の声はモロに耳に入ってくるのである。
 先程までそんなに気にはなっていなかったが、目をギュッと瞑り与えられる刺激に耐えている為か、周囲の物音や声がやけにハッキリと聞こえてくるのだ。
 看護師と談笑している兵士の声、「痛い痛い」と訴える声、看護師が何か説明している声、カチャカチャと器具のぶつかる音、そして、それらの中に不協和音の様に時折、ギッギッギッと簡易ベッドの軋む音や、甘さを纏った吐息が何処からか混じってきている気がした。
 この処置室の個室で、自分達以外にもこんな事をしている兵と看護師がいるのかもしれないと思うと、背徳的な感情がムクムクと湧き上がり、逆にそれがマホの中を熱くさせた。


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