企画物BOOK

□全力ヒーロー
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溢れんばかりの芋が入った麻袋を両手でヨタヨタと抱えながらマホは食堂のキッチンを目指す。
 
「おい、マホ!お前、危ないだろ。俺が持ってやるよ。」

背中から飛んできた声に、振り返ろうとしてマホはグラリと体を傾けた。

「あっ……とっ……と……」

何とかバランスを取ろうとしたものの、両手に抱えた芋の重さも手伝ってマホはバターンと後ろ向きに倒れた。
 麻袋からこぼれた芋がゴロリゴロリと廊下を転がる。

「うわぁ……俺の所為か?」

 背後から声をかけた張本人、コニーは坊主頭をスルリと撫でてマホに駆け寄る。

「痛た……。ごめんなさい。コニー。びっくりしちゃって。」
「いや、俺こそビックリさせて悪い。」

 すぐに転がった芋を拾い終えると、コニーは麻袋を自分の手に抱えた。

「食堂だろ?俺が持ってやる。」
「いつも有難う。」

ペコッと頭を下げてマホはコニーと並んで歩き出した。
 
マホ・ネームは今年から調査兵団の食事を担当する事になった料理人だ。料理人と言っても厳しい修行に励んだというわけではなく、王政の料理人であった父親を手伝って少し学んだといった具合だ。
 そんなマホが突然調査兵団の料理人に配属されたのには、ふざけた理由があった。
 王宮で開かれたパーティーで父親の手伝いをしていた時、大皿に乗った料理を会場のテーブルに並べていたら一人の男に腕を掴まれた。

「おい、お前、名前は何という?」

 スーツ姿の小柄な男性の鋭い目付きに、泣きそうになりながらもマホは答えた。

「は、はい。マホ・ネームと申します。」
「マホよ。お前はこの王宮の料理人なのか?」
「いえ……父が料理人で、私は手伝いです。」

 それだけの会話で男はマホの前から去って行ったのだが、それから3日後に突然、調査兵団の料理人という仕事がやってきたのだ。
 よく分からないままに、調査兵団の本部にやってきたマホはそこで再会した男に目を真ん丸くさせる。

「あ、貴方はパーティーの時の!!」
「よく覚えていたな。マホ。褒美に教えてやろう。俺はお前が気に入った。だから俺がエルヴィンに言ってお前を此処の料理人にするよう手配してもらった。」
「えっ……ええ!?」

 

「ねぇ、コニー。リヴァイさんって本当に人類最強なの?」

どうにも信じられないといった様子で聞くマホにコニーは苦笑する。

「ああ。1人で兵士4000人並みの戦力を持ってる。……マホに構ってるリヴァイ兵長からは想像出来ないだろうけどな……。」

コクン、とマホは頷いた。
 自分を気に入ったと言って、調査兵団の料理人にまでしたという男は人類最強と言われる兵士長だったのだ。しかし、リヴァイが巨人と闘う姿を見た事の無いマホにはどうもそれが信じられないのだった。

 食堂に入り、そのままコニーと共にキッチンへと足を踏み入れたマホは、キッチンに居た先客にヒッと小さく悲鳴を上げた。

「おいコニー。てめぇ、何でマホと並んで歩いてやがる。」
「何でって、マホがこの芋を重たそうに運んでいたから……」

 コニーが説明をしている途中で、リヴァイは彼の手から乱暴に麻袋を奪うと、自分はこんなもの全く重くないと言う様に片手で持つと、フンと得意気な表情でコニーを見下ろした。
 
「お前も随分重たそうな顔で持ってきやがったな。俺からしたら軽い部類だがな。こんなもの。」
「はぁ……。じゃぁ、マホ。俺はもう戻るな。」

 リヴァイを少し面倒そうに見て、コニーはマホにそう告げるとキッチンを出た。

「あ、ありがとう、コニー!!!」

 コニーに向かって叫んだ声に、「おう」と小さく声が返ってきた。が、その直後真後ろから低い声が飛んでくる。

「おいマホ。何でコニーに手伝ってもらったんだ。」

 ソロリと振り返ると、まだ芋の詰まった麻袋を片手で持ってリヴァイがこちらを睨んでいた。

「何でって言われましても、私が廊下で転んで……」
「転んだ、だと?怪我をしたのか。」
「いえ、尻持ちをついただけです。」
「それは重大な問題だ。マホ。今すぐ下着を脱いで尻を見せろ。」
「み、見せませんよ!!何言ってるんですか!!」

 軽蔑した様な視線をリヴァイにぶつけ、マホは一歩後ずさりする。
 そのマホの行動にリヴァイの眉がピクリ、と動いた。麻袋を作業台の上にドサ、と置くとリヴァイはマホが後ずさった分距離を詰める。

「何言ってる。お前に拒否権は無い。」
「何故ですかっ!?」
「お前は俺のモノだからだ。」
「ひぃっ……」

 ガシッと腰を掴まれ、マホは悲鳴を上げる。

「ちょっと、リヴァイさん。スカートを捲ろうとしないで下さい!!」

 何故この人はこんなにも自分に構うのだろうと思いながらもマホは半泣きでその手から逃れようとするが、人類最強と謳われる男の力に敵うはずもなかった。
 スカートの裾を引っ張り上げられ、いよいよマズイとマホは叫んだ。

「だっ……誰かぁ!!!」
「お前は誰かが来てくれると思うのか。残念だがそんな危険を冒す奴は―……」

 不敵に笑いながらリヴァイが言ったその時、シュンッと風を斬る様な音と共にキッチンに現れた人影がマホの体だけをリヴァイの元から取り上げた。

「てめぇ……」

 突如現れた人物を睨みつけ、低く唸る様な声を出すリヴァイに、その人物はマホの体を後ろから抱きしめて淡々と言い放つ。

「貴方のしてる事はセクハラ。マホは嫌がっている。ので、私はマホを助ける。」
「み、ミカサ!!」

 振り向いて、真後ろに居たミカサの姿を認識するとマホは嬉しそうに笑い、その顔を見てリヴァイはチッと舌打ちをする。

「邪魔しやがって……」
「邪魔なのは貴方の方。マホ。私に掴まって。」

 ミカサはマホの手を取ると、自分の肩に彼女の手を引っかけさせた。そのままマホの体をお姫様抱っこの形で抱えると、再び風を斬る様な速さでキッチンを後にした。
 一人残されたリヴァイは、前髪をサラリと舞い上げた見えない風を睨みながらボソリと呟く。

「上等じゃねぇか……」
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