企画物BOOK

□全力ヒーロー
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「また、リヴァイ兵長に何かされてたのか?」

104生の集まる談話室に連れて来られたマホは、心配そうに自分を取り囲んで来るメンバーにオロオロとしながらも、エレンの言葉に返事をする。

「何かっていうわけでは無いのだけど…、その前にミカサが来てくれたから。」
「ちなみに、私が駆け付けた時は、あのチビはマホのスカートを捲り上げようとしていた。」

ミカサがそう言えば、ジャンは許せないという様に拳を握った。

「悪い、俺がすぐにキッチンを後にしたから……。」

申し訳無さそうに頭を下げるコニーにマホは両手をブンブンと振った。

「そんな!手伝ってくれてありがとう。」
「うーん。それにしても兵長のマホへのセクハラはヒドイですね。大体兵長の所為でマホがキッチンから逃げ出してきたら、夕飯の準備が遅くなるじゃないですか!!」

顔を真っ青にして言うサシャをアルミンは宥めながら、難しそうな顔をする。

「サシャの個人的な感情はとにかく、マホが困っているなら僕達は何とかして助けたいね……」

今年入団した104期生と今年から料理人として配属されたマホは何かと絡む事が多く、104期生からすればマホは同期と同じ認識なのだ。
 そんなわけで、マホがリヴァイから一方的に受けているセクハラを何とかしてあげたいと皆は思うのだった。

「人類最強って言っても、俺達で力を合わせたらきっとマホを守れるんじゃねぇか!?」

 気合充分といった感じで立ち上がったジャンに皆が皆色んな表情を見せる。

「私もそう思う。そもそも、私一人でもあんなチビからはマホを守れると思う。」
「リヴァイ兵長の事は尊敬してるけど、それとマホへのセクハラは別だよな!いざとなったら巨人になってでもマホを守る。」
「え、エレン。それは危険だから駄目だよ。とにかくリヴァイ兵長をマホに近付けない様にしよう。」
「そうですよ!というか兵長をキッチンから引き離しましょう!!」
「俺、馬鹿だから何も作戦は浮かばないけど、絶対守ってやる!!」

 自分を取り囲む皆の熱気に圧倒されながらも、マホは心強い友人達の顔を眺めて少しホッとした表情を見せた。
 


「おい。てめぇら何マホを取り囲んでやがる。」

 談話室の入り口に姿を見せた、小さいけれど強烈な存在感を放つ男の声にその場に一気に緊張が走る。

「リヴァイさん!!??」

 慌てるマホの腕を、エレン、アルミン、ジャンが掴む。
 そんなマホの前にコニーとサシャが立った。

「皆はマホを連れて逃げてくれ。俺がここは食い止める。」
「私もやります!早くマホをキッチンへ!!」
「分かった。二人に任せよう。皆はマホを連れて此処を出よう。」

 ミカサが先陣をきり、エレン、アルミン、ジャンはマホの体を3人で横抱きに抱えるとミカサに続いて走り出した。

「おい、てめぇら待ちやがれ……っ?」

 マホに手を伸ばそうとしたリヴァイの体をコニーとサシャがガッと抑える。

「何してやがる。離せ。削ぐぞ。」
「離しません!兵長がマホの邪魔をするから夕飯が遅れるんです!」
「何言ってやがる。」

そう言ってリヴァイはポケットから、一切れの肉の燻製を取り出すとそれをポイッと遠くへ放った。

「おっ……お肉!!!!!!!!!!!!」

目からギラッと光を出してサシャはリヴァイから体を離すと、投げられた肉に向かって一直線に走り出した。

「なっ……おい、サシャ!!お前何考えてんだよ!!」

コニーの声も聞こえてはいない様子でサシャは肉に到達すると、ガツガツと食べだした。

「おい。ハゲ。てめぇは一人で俺を抑えられると思うのか?」
「くっ!!そりゃ…もう抑えたところでもう…無駄でしょうけど……けど、抑えなきゃいけないんです。」
「ほう…。いい心掛けだ。兵士としては評価する。だが邪魔だ。」
「ぐはぁっ……」

大して力を入れた様子もなく、リヴァイはコニーの体を持ち上げると、自分の体を掴んでいた彼の手を外し、ポイッとサシャの居る方向へ投げた。
 コニーは放物線を描きながら見事なコントロールでサシャの真上に墜落した。

「ぎゃぁっ!!痛っ!!コニー何ですか……」
「何ですかじゃねえんだよお前!食い物に釣られやがって……」
「はっ!!またやってしまいました!!兵長は……」
「もういねえよ……。」

 広い談話室にはコニーとサシャがポツンと二人で残され、先程まで人が賑わっていた残響の様に空気が澱んでいた。

 

「おおおい!もう後ろからリヴァイ兵長が来てるぞ!何してんだよコニーとサシャは!?」

 廊下を猛スピードで走りながら、背後より迫ってくる殺気に慌てた様にジャンが言う。
 その声に後ろを振り返ったアルミンもギョッとした顔を見せる。

「まずい……このままじゃすぐ追いつかれる。」

 先頭を走っていたミカサがピタ、と止まり後ろを振り向いた。

「ミカサ!?どうしたんだよ?」
「エレン達はこのままマホを連れて走って。私がチビを塞ぐ。」
「けど、お前、一人で!?」
「大丈夫。皆はこのまま走って。もう時間が無い。」

 言いながらミカサは対人格闘の構えをして、後方から走ってくるリヴァイを見据えた。
 そんなミカサを心強そうに見つめ、エレン、ジャン、アルミンは互いに頷き合うと、そのまま走り出した。


「ミカサ…。次はお前か。」
「これより先には行かせない。」
「確かに、お前が相手というのは厄介だな。」

 リヴァイはそう言いながら、ミカサから適切な距離を取ると、手袋を装着し懐から布を取り出した。

「何を…!?」
「おい、ミカサよ。これが何だか分かるか?」
 
黒い布を持った右手を前に出して、ミカサに見える様に広げリヴァイはニヤリと笑った。

「エレンの使用済みの下着だ。」
「なっ!?何でそんなものを!?」
「こんな時の為に洗濯前にコッソリ拝借しておいた。汚ぇが、背に腹は変えられない。これが欲しければそこを通せ。」
「そ、そんな手に私が易々と……」

視線はしっかりとエレンの下着だという黒い布に注ぎながらも、何とかミカサは誘惑を断ち切る様にしてそう言い放った。しかし、リヴァイは相変わらずニヤリと笑ったまま、再び懐を探った。そしてまた布を取り出す。

「ちなみにこれはこの間の訓練の時にエレンが汗を拭っていたタオルだ。ちっ……汚ねぇな。持ってるだけでゾッとしそうだ。ここに捨てていく。」

言ってポイっとリヴァイはエレンの下着とタオルを後ろに放った。

「え、エレン!!!!」

ミカサは慌てた様にリヴァイの元へ駆け寄るとそのままリヴァイを通り過ぎて、リヴァイが布を放った元に向かった。
 そんなミカサの背中を見送りながらリヴァイはまた先へと進む。



 「よし、もうすぐでキッチンに着く!マホ、もう大丈……うわああああああ」

 一番後ろでマホの足を抱えていたアルミンが派手に転んだ。

「おい、アルミン大丈夫かっ……てリヴァイ兵長!?」

後ろのアルミンを伺ったジャンは、アルミンの背中を踏みつけているリヴァイの姿に目を見開く。

「だ、大丈夫だ!!死んでも足手まといにはならない!二人はこのまま走って!!!」
「馬鹿野郎アルミン!そんなお前の状態見て放っておけるわけねぇだろ!おいエレン、お前が一人でマホを連れて行け!俺は此処でリヴァイ兵長を食い止める。」
「くそっ……。分かった。ジャン、アルミン、武運を祈ってる!よし、マホ。ここからは走るぞ。行けるか?」

ジャンもマホから手を離し、横抱きにされていたマホの体はトン、とその場に立たされた。隣ではエレンがギュッとマホの手を握っている。

「う、うん。走る。」
「よし、行くぞ!!」

エレンに引っ張られる様にしてマホは走り出した。
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