企画物BOOK

□Un autre 『Existence』
1ページ/2ページ

 ベッドが一つになり、以前より若干広くなった寝室で、リヴァイはマホの体を後ろから抱き、彼女の随分と大きくなったお腹を撫でながらベッドに腰掛けている。

「やはり行きたくないな……。」
「何を言ってるのリヴァイ。それでも兵士長なの?」

怒ってそう言うマホの声に、リヴァイは拗ねた様に口をへの字に曲げる。

「もういつ生まれてもおかしくないんだろうが。俺が壁外に行ってる間に生まれたらどうする。」
「それはしょうがないでしょ。産むのは私だし、貴方がいなくても産む時は産む。壁外は、貴方がいないと助からない命があるでしょ。」
「しかし……俺が傍に居たい。」
「出産に立ち会う為に、壁外をすっぽかしたなんて生まれてきた子供に言える?」

はぁ……とリヴァイが溜息をつくのをクスクスと笑って、マホは手を後ろに伸ばすと、リヴァイの髪を撫でた。その感触に心地良さそうに瞳を閉じてから、リヴァイはマホの前に回り込むと、ソッと彼女の唇にキスをした。
 チュッと触れるだけのキスをして離れると、リヴァイは真面目な顔で言う。

「おいマホ。絶対俺が帰ってくるまで待ってろ。産気づいても我慢しろ。」
「何それ。そんなの無理よ。」
「無理でも約束しろ。そうじゃないと俺は安心して壁外に行けない。」
「はいはい。じゃぁ待ってるから。絶対帰って来てね。」
「当たり前だ。」

 そう言ってからもう一度二人は口付けを交わした。



 それから2日後。壁外遠征を終えてカラネス区の門を潜ったリヴァイは、そこで待っていたヒッチの言葉に握っていた手綱を取り落としそうになった。

「おい……それは本当か。」
「はい。私も、早馬に乗って報告に行こうかと思ったのですが、マホに止められたので……。」
「止められた……だと?」
「何でも『産まれそうだなんて聞いたら、リヴァイは途中で帰ってきてしまうから』って。」

チッと舌打ちをすると、リヴァイは帰還の列から外れて一人馬を走らせた。
 

クソッ……という声がリヴァイの口から何度も漏れる。

 
 何時だってアイツはそうだ。俺との約束なんて守らずに、勝手な事ばかりだ……。
 
「待っとけって言っただろうがっ……」

 何時も翻弄されるのは俺だ……。


トロスト区の外門の前の兵士達はリヴァイが急いでいる理由は分かっているという様に、敬礼をしてすぐに門を開いた。

 家の前に立っていた使用人にリヴァイは馬を預けると、走って家の中へ進んだ。
 寝室の扉を開けると、ベッドの上に腰掛けたマホが不思議そうにこちらを見ている。リヴァイはその手に抱えられている小さな存在を見て眉を顰めた。

「てめぇっ……。待ってろって言っただろうが……」
「しょうがないでしょ。出て来たいって赤ちゃんが言ったんだから。」
 
 シレっとそう言ってのけるマホにもっと何か言ってやろうとリヴァイは彼女の前まで近付くが、その手の中の存在を見て、眉間の皺を消した。

「男の子だったよ。抱いてみる?」

 ハイ、と差し出されてリヴァイは恐る恐るそれを両手で抱える。

 とてもとても軽い……のに、重い。
 
 自分の手の中でスゥスゥと寝息を立てるのが自分の子供なのだ、と思うと体が震える程の感動が襲ってくる。

「リヴァイ、固まってるよ。」

可笑しそうにマホは笑うと、リヴァイの手の中の赤ん坊の頬をツンツンと指で突いた。その刺激にピクピクと赤ん坊が動き、リヴァイはオロオロした様にマホを見る。ますますマホは可笑しそうに笑った。

「お、おい。動かさせるな。落としたらどうする。」
「落としたら離婚よ。」
「馬鹿言え。赤ん坊なんて抱いた事ねぇんだよ。」

と、ピクピクと動いていた赤ん坊の顔が歪んだかと思うと、小さな口を開けて泣きだした。
 顔を真っ青にして、今にも赤ん坊と一緒に泣き出しそうな顔のリヴァイを見て、流石に可哀想になってきてマホはリヴァイの手から赤ん坊を取り上げた。
 よほど体が固まっていたのか、リヴァイは首をコキコキ鳴らして大きな息を吐いていた。
 マホの腕の中でも変わらず泣き続ける赤ん坊をリヴァイは心配そうに覗きこんだ。

「おい、大丈夫か。何で泣いてるんだ。何処か痛いんじゃないのか。」
「そろそろおっぱいの時間なのよ。」
「おっ……」

 マホの口から出た単語にリヴァイは妙にソワソワしだすが、マホはといえば全く気にする様子も無く上着のボタンを外すと、随分と大きくなった乳房をポロリと出した。

「おい、待て。ちょっとお前待て。おい。」
 
 ますますリヴァイは慌てて、ベッドから立ち上がると無意味にその場を行ったり来たりと歩き出した。

「リヴァイ。煩い。こんな事で興奮しないで。」

ピシャリとマホは言ってのけると、赤ん坊の口元を乳房の先端へと導く。
 顏を真っ赤にして泣いていた赤ん坊は、乳首をパクッと咥え込むと、たちまちに泣き止んで今度は必死に吸い付き出した。
 その姿を見れば、リヴァイの中の煩悩は瞬時に消え去って、落ち着いた様子でまたマホの隣へと腰を下ろした。
 
 



 
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ