企画物BOOK

□怪我の功名
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■兵長Ver■

調査兵団の本部の静まった廊下にカタカタと木製の車椅子を走らせる音が響いている。その車椅子の上に腰掛けているマホは憂鬱そうに溜息を吐いた。

「全治1ケ月かぁ……」

そう1人呟く彼女の両足には、真っ白い包帯が痛々しく巻かれていた。

今回の壁外調査でマホは、巨人と対峙した際に巨人の腕が体に接触し、立体機動のバランスを崩して思い切り地面に叩きつけられた。足が変な方向に曲がっているのを目視で確認し、(あ、私、死んだな)とぼんやりと思いながら意識を失った。
次に目を覚ました時は帰還中の馬車の中で、すぐ隣に馬を走らせているリヴァイの姿がある事に酷く安心を覚えた。
まぁ当のリヴァイはマホが目を覚ました事に気付くなり、「てめぇは馬鹿か。何で怪我なんてしてやがる。」と彼女を睨み付けながらそう悪態をついてくるのだったが……。

壁内に戻ってすぐ、本部に帰る前に医師に見せれば全治1ヶ月という判断を下され、改めて自分の負った怪我の重さを思い知らされた。
それにしても厄介な怪我をしてしまった、とマホは今日何度目になるか分からない溜息を吐く。
せめて片足だけならばまだしも、両足を怪我してしまうと、当然ながら歩く事もままならない。
使い慣れない車椅子はなかなか思う様に進まず、苛々を溜め込みながら、マホは自室へ繋がる廊下をカタカタと進んでいた。

「え?」

自室の扉が視界に入った時、マホの口からそんな声が漏れた。
目は真ん丸く見開き、口は間抜けにポカンと開いている。

「なんで、戸が開いてるの?」

あまり防犯に関する意識は無いが、部屋を出る時に鍵をかけるのを忘れた事は今まで1度も無い。
特に壁外遠征の時は戸締りの確認も怠らない。
脳内の記憶を掘り起こせば、やはり壁外遠征の当日、鍵をかけて確認をしていた光景が浮かび上がってくる。
だとすれば現在扉が開いている状況で考えられるのは『誰か』が鍵を開けたという事で、それが『誰か』となれば、思い当たる人物は限られていた。

その人物を頭に浮かべて、悶々と色々考え込んでいるマホを尻目に、開いた扉から見慣れた兵士が2人出て来て、おまけに彼等は彼女の部屋のベッドを担いでえっちらおっちらと何処かに運び出そうとしている。

泥棒にしては大胆すぎる……と思いながら、マホはその兵士達に声をかけた。

「ねぇ、2人共」

マホの声に、2人は一瞬ビクッとした様子で立ち止まったが、別に何もやましいことはしてませんよ、といった屈託の無い顔を2人してマホに向けてきた。

「マホ分隊長!おかえりなさい!」

間違いなくこの2人は泥棒では無いだろう。そもそも2人共マホの忠実な部下だ。その2人がまるで当たり前の様に彼女の私物を運び出すには、それなりの理由があるはずなのだ。

「あのさ、私のベッドを何処に連れていくつもりなの?」
「リヴァイ兵長の執務室です!」

何の迷いもなく答えた兵士に、マホは確認のために聞いた。

「それは、誰の命令?」
「リヴァイ兵長です!」

やっぱりか……と、マホはガックリと項垂れ、えっちらおっちらとベッドを運ぶ彼等の後ろを、カタカタと車椅子を走らせながら追いかけた。

「兵長!!」

執務室に入るや否や、マホは大きな声で部屋の主の呼称を叫んだ。
テキパキとマホの部屋にあったはずの生活家具をセッティングしていた部屋の主、リヴァイは、マホの姿を見ておもむろに眉間に皺を寄せた。
そして、ツカツカと彼女の前まで歩いてくると、腰を折って視線を合わせる様に屈んだ。

「てめぇ。俺が迎えに行くから病院で待ってろと言っただろ」

パチンパチンとマホを攻めるリヴァイのデコピンから逃れる様に、体を少しだけ仰け反らせ、両手の平で額を隠す様にして守りながら、マホは必死で答える。

「それはっだってほら、車椅子貸してもらえたのでっ……ちょっと、ほんと痛いから止めて下さいっ」

マホの懸命な訴えが効いたのか、リヴァイは彼女の額への攻撃を止めた。
ホッとして額を労う様にサスサスと撫でていたマホの両脇にスルリと手を入れて、リヴァイは彼女の体を車椅子から持ち上げた。

「兵長!?」

一体次は何だとばかりに、不安気に眉を寄せるマホに対して、リヴァイは涼しい顔で、抱き上げたマホの体を、運び込まれていた彼女のベッドの上にポスンと乗せた。

「寝とけ」

それだけ言うと、リヴァイはまたテキパキとマホの部屋にあったはずの家具をセッティングし、先程の兵士達にアレを持って来い、コレを持って来いと指示している。
両足が不自由な状況でベッドに下ろされてしまっては、そこから降りる事も出来ず、それでもマホは自分の存在を主張する様に大きな声で彼を呼ぶ。

「兵長!!あのっ兵長!!」

チッ……と小さな舌打ちをしてから、リヴァイは彼女の方を振り返り、面倒くさそうにベッドの前に戻ってきた。

「何だ。今俺は忙しい」
「何だじゃないですよ!何で私の私物が兵長の部屋に運ばれてるんですか!?」
「俺が運ぶ様に指示したからだ」

至極当然と言った顔で答えるリヴァイに、マホは苛々した様子で更に彼に問い詰める。

「そういう事じゃなくて!何で運ぶ様に指示したんです!?意味が分からないんですが!?」

いくら上司といえど、いくら恋人といえど、勝手に私物を持って行かれるのは納得がいかない。
だがしかしリヴァイは、何だそんな事か、と言いたげな表情で、フゥと息を吐いた。

「俺がお前の部屋で業務をするか、お前が俺の部屋で療養するかの二択だが?」
「は、はぁ?」

何故そんな究極の選択になっているのかますます理解出来ず、マホはしかめっ面を通り越して今にも泣き出しそうな顔になっていた。
そのマホの表情に、リヴァイは眉間に皺を寄せ、彼女の後頭部に手を添えると、グイッと自分の方へと引き寄せた。

「何で泣きそうになってるんだよ。お前」

リヴァイの肩に額を乗せて、マホはブンブンと頭を振った。

「泣きそうなんじゃなくて、兵長の行動が理解出来なくて困ってるんです!」

サラリ……と、リヴァイの手の平がマホの後頭部から頭頂部を優しく撫で上げた。

「1人に、出来るわけねぇだろ」
「え?」
「両足がイッちまってるお前を、どうして1人の部屋に置いとけるんだ?心配で俺の業務に差し障る。」
「あ、あの、兵長?それはつまり何ですか?怪我した私が心配で目の届く所に置いておきたいって事−−っ痛!!」

ゴン、とリヴァイの頭突きが頭に降ってきて、マホは小さく悲鳴を上げた。
こちらを見ているリヴァイは、不機嫌そうに眉を寄せ、唇をヘのじに歪めている。

「何度も言わせるな。大体お前、病院で待ってろと俺が言った事も無視しやがって。」
「だからそれは……」

プリプリと怒っている恋人を見ながらマホは、
(早く貴方の顔が見たくて、待ってられなくて、急いで帰って来たんです)
と、心の中で呟いた。

「何ニヤニヤしてやがる。気持ち悪ぃ」
「き、気持ち悪いってヒドッ……。というか勝手に彼女の私物を自分の部屋に運び込む方が……」
「何言ってやがる。目を離した隙に怪我なんかしたお前が悪いんだろうが。」

そんな事を言われても……と、不服そうにするマホの唇に、リヴァイは優しく口付けた。

扉の前ではマホのタンスを運び込んできた2人の兵士が、どうしたものかといった表情で、ベッドの上でキスを交わしている上司を眺めていた。


―END―



↓お礼&後書き↓
読んで下さって有難うございます。そして、リクを下さったsuzu様、どうも有難うございます。
色々と台詞や設定を書いて下さっていたのに、微妙に改変した感じになってしまってすみません汗)
ジャン夢を一番にリクをしていただいていたのに、何だか兵長Verのが濃い感じになってしまいましたが汗)ご了承ください。
実は夢主が心配でしょうがない兵長とか美味しかったです//

ここまで読んで下さった読者様、素敵なリクを下さったsuzu様、本当に有難うございました。
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