企画物BOOK

□Un autre 『Existence』
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「……飲んでるのか。」
「飲んでるよ。一生懸命。」

言いながら、マホは赤ん坊を見つめて優しく微笑む。
 それは、リヴァイに見せる時の表情とは少し違っていて、だけどこの表情は何処かで見た事がある……とリヴァイは思った。

 ああ……。これは、あれだ。コイツの母親が、コイツを見る時の顔だ……。

 それと同時に実感するのは、自分の妻が母親になったのだという事実。それはつまり、自分が父親になったのだという事でもあるのだが、そちらについてはいまだに実感が沸かないのだった。

「おい、マホ。」
「ん?」
「俺はコイツの父親になれるのか?」
「なれるのかって……もうなってるでしょ。」
「だが俺は、何をしてやれば……。」
「愛してくれてたらいいよ。」

ニコリと笑ってリヴァイを見つめる瞳は、よく知ってる妻の顔で、安心した様にリヴァイは彼女にソッと口付けた。

「なぁ。コイツはこんなに一気に飲んで大丈夫なのか。」

 授乳を開始して10分が過ぎてもまだ元気よく乳を吸う赤ん坊にまた心配そうにリヴァイは聞く。

「大丈夫よ。おっぱいしか飲めないんだから。」
 
 自分にもこんな時があったのかと思うと不思議な気分になり、リヴァイは赤ん坊をぼんやりと見つめた。

「マホに、似てるか。」

 クリリとした茶色い瞳を開けてチュッチュッと乳を吸う姿に笑ってリヴァイが言うと、マホはそう?と首を傾げた。

「私はリヴァイに似てると思ったけど。おっぱい吸ってる時の表情とかソックリ。」
「おい……」

 赤ん坊の乳吸いと同じにするな、心外だ。とリヴァイは言いながらも、やはりマホに似ていると思うが……と再び赤ん坊を見つめた。
 
 それから更に10分、乳を吸い続けて赤ん坊はようやく満足した様に口を離した。

「ほら見て、いつも授乳が終わったら、目瞑って眉顰めるの。可愛いでしょ。これもリヴァイに似てる。」
「おい待て。俺がいつこんな顏してる。」
「朝起きた瞬間とかよくしてるけど?」

 今度はフワワ、と小さな口を開けて欠伸をすると、茶色の瞳を開けたままぼんやりとした表情を見せる。

「なら、この間抜け面はお前ソックリだな。」
「ま、間抜けってひどい!!!」

二人で赤ん坊を見つめながら、そんな事をギャアギャアと言い合っていると、寝室の扉が開いた。
 
「リヴァイ!帰ったか!!!」

中に入ってきた自分の両親の姿にマホはムッとした顔を父親に向けた。

「パパ!入る時はノックしてって言ってるでしょ!授乳中とかだったらどうするのよ。」

 そんなマホを気にする様子も無く父親はハハハと笑うと、マホの腕の中の赤ん坊を見下ろして、目尻を下げた。

「おい。コイツはマホに似てるよな?」

リヴァイが父親に確認する様に聞けば、父親は何を言っているんだ、と首を振った。

「マホに似てるんじゃなくて、ママに似てるんだ。まぁ、マホはママ似だが、この子はもっとママに似てる。」

それを聞いていた母親がクスクスと笑って赤ん坊を見つめて言った。

「あら、私はパパに似てると思ったんですよ。ほら、この口元なんてソックリです。」

 ああ……駄目だ、この夫婦。と思いながらリヴァイは、つい先程の自分とマホの会話も同じ様な物だったと気付き、ガックリと肩を落とした。

 コンコン、と再びノックの音が聞こえ、リヴァイが扉を開けると、そこにはよく見知った男が立っていた。

「リヴァイ。どうだ。父親になった気分は。」

「あ、エルヴィン!!!」

リヴァイの背中を追い越して、マホの声がエルヴィンに届く。エルヴィンは、マホの両親にぺこりと頭を下げてから室内へと足を進めた。
 マホの腕の中の赤ん坊を眺めて、ニコリと微笑んだ。

「ねぇ、エルヴィン。この子、リヴァイに似てると思わない?」

 そうマホが聞けば、エルヴィンは赤ん坊を見つめながら、怪しげに笑った。

「いや、私に似ているな。」
「おい、それだけは違うだろ。」

素早いリヴァイの突っ込みに、部屋に居た全員が声を上げて笑った。


 やがてスヤスヤと眠りだした赤ん坊を抱いて、マホは両親と何やら楽しげに話し出した。それを、リヴァイとエルヴィンは少し離れて眺めていた。

「やはり、リヴァイだったな。」

マホ達に視線を送ったままエルヴィンが言い、リヴァイはチラリとエルヴィンの表情を伺い見た。

「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。マホを幸せにしてくれると思った。」
「……いや。アイツが教えてくれた。俺に、家族ってものを……。」

そう言ってリヴァイは愛おしそうな視線でマホを見つめていた。


―END―

 
 
 
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