審神者

□たまには、こんな日も
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それは、今のように刀剣が揃っていなかった頃。

審神者であるなまえは、最初に加州清光を選んだ。次いで、薬研藤四郎、今剣。暫く4人でいた期間があり、そして再び個性豊かな刀剣たちが集まり、今に至る。


「なまえさま、きょうはあたたかいですね」
「そうだねえ。昨日は寒かったから、三寒四温ってやつかな」
「あ、見て。桜が咲き始めてる」
「はるですね」


ほのぼのと縁側で日向ぼっこをする3人。縁側に座るなまえ、彼女の膝に座る今剣、彼女の隣にぴったりと寄り添う加州清光。そして、


「茶が入ったぞ。あと菓子だ」
「「「ありがとー!」」」


お盆に人数分の湯のみと和菓子を持って現れた薬研藤四郎。彼は3人へ配ると、加州とは反対の、なまえの隣へと座った。


「は〜、お茶が美味しいわあ。ありがとう、薬研」

「どういたしまして、ってね。今剣のはぬるめにしといたから、もう飲めるぜ」
「ありがとうございます、やげん」
「この和菓子、桜の形しててすっごい綺麗」
「それはこの前政府から送られてきた兎庵っていう有名なお店の和菓子でね。どうしても食べたいってお願いしたんだ」
「ん、雅なことは分からんが、確かに綺麗で美味い」
「それはよかった」


にっこり笑った主に、3人もそれぞれの笑顔を向けた。


「ねえ、3人は来て欲しい刀はある?」
「ぼくはいわとおしにきてほしいです」
「いわとおし?」
「はい!とってもおおきくて、ぼくのまえのあるじさまにつかえたひとの、なぎなたです」
「薙刀かー、ふふ、懐かしい」
「?なぎなたがなつかしいですか?」
「ふふ、ちょっとね。そっか、じゃあ今剣と仲良かったんだ」
「はい、あえるのをたのしみにしてます」
「清光と薬研は?」
「俺は特にいないけど…あー、強いて言うなら、主が持ってた刀で、大和守安定ってのがいるんだ」
「仲は良かった?」
「全っ然!別にここに来なくても平気だし」
「大和守安定ね、覚えとくわ」
「なまえは俺の可愛さだけ忘れないでくれればいいよ」
「はいはい。じゃあ、ラスト薬研」
「俺は兄弟がみんな来てくれると嬉しいな」
「藤四郎って名のつく刀は多いんだっけ」
「ああ。一期一振って太刀から、脇差、短刀。鍛刀は運もあるから、気長に待つことにするさ」
「そうだね。私も頑張るよ」
「はは、無理はしないでくれよ」


次に来るのは誰だろう。来たらまず何をしよう、何を教えよう。4人できゃらきゃらと話して、時に笑って、そんなことをしていると、いつの間にか日の光は橙色に変化をしていた。


「今日の夜ご飯は何にしようか。洋風?和風?」
「俺、この前テレビでやってた〈ぱすた〉って素麺みたいなのが食べたいな」
「ぼくもたべてみたいです!そのときはちゃいろのたれがかかってました」
「白っぽいやつもあったね」
「パスタか、いいね。薬研もパスタでいい?」
「ああ。大将の作るものは何だって美味いから楽しみだ。手伝いなら言ってくれよ」


ありがとう、と薬研の頭を撫でる。目を細めて嬉しそうにする薬研に満足していると、撫でて撫でて!と加州や今剣も目を輝かせてなまえを見るので、


「〜〜ああもう!うちの子大好き!」


がばりと、3人まとめて抱きしめ、まだ日の光で暖かい縁側に寝転がった。

橙色と藍色が混じる空、浮かぶ白い雲、少し冷たい風に、注ぐ優しい日の光。

審神者と刀剣としての仕事ももちろん大事だし、それが自分たちに与えられた唯一の命である。けれど、たまにはこういうのんびりした日だって、あっていいはずだ。美味しい物を食べ、美しいモノを見て、仲間と語り合う。そんな、心を安らかにできる時間を得ることは、悪いことではないはずだ。



望んで、審神者になったわけでも、望んで、人間の形をしているわけでも、ないのだから。



けれど、それでも今が楽しいのも、また事実。


「さーて!洗濯物取り込んで、夜ご飯作り始めようか」
「飯、手伝うぜ」
「俺と今剣は洗濯物取り込んでくるから」
「まかせてください〜」
「ありがとう。頼んだわよ」


この本丸が、今よりもっともっと騒がしくなるのは、あともう少し。




 

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