審神者

□見た目を侮ってはいけない
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「なまえさまー」
「なあに?今剣」


前から走ってくる今剣に、なまえは足を止めて彼を待った。走る速度を止めずに抱き付いてきた今剣は、その衝撃で呻き声をあげたなまえの腰にしがみ付いたまま、笑顔を見せる。


「なまえさま!おしごとはおわりましたか?」
「あ、私の呻き声はスルーなんだね」
「?」
「何でもないよ。さっき政府への提出物を出してきたから、今日はもうやることないよ」
「ほんとうですか!?なら、ぼくとあそんでください!」
「うん、いいよお。何しようか、鬼ごっこ?隠れんぼ?この前やった影踏みでもいいね」
「ぼくは…」




「これで良かったの?」
「はい!」


今剣が足をぶらぶらさせながら、隣に座るなまえへ微笑んだ。

彼らは敷地内にある高い木の枝の上に座っていた。最初梯子を持ってこようとしたなまえを今剣が止め、いきますよーと掛け声ひとつ。どこに?え、まさか…と顔を真っ青にしたなまえが今剣から離れようとしたが、遅かった。


「ぎゃああああ!」


屈んだ今剣がなまえの膝裏に腕を通し、立ち上がる動作でぴょーんと大ジャンプ。捕まるものが何もないなまえは涙目のまま目を瞑ると、今度は膝裏にあった今剣の腕の感覚も消えた。あ、終わった…。ふわりと浮いた体は重力に沿うしかなく、真っ逆さまに地面に逆戻り。と半ば冷静な頭で考えていると、ぐいっと腕を捕まれ、体が急激に安定する。


「へ…?」
「なまえさま、みてください。きれいですよー」


体が到着したのは、下から見上げるばかりだった木の枝の上。隣に座る今剣は何もなかったかのように景色の美しさを勧めた。
今剣に一言注意をしようと思ったなまえだったが、目を開けた先に広がる自然の美しさに言葉が出ない。敷地内にいただけでは到底見ることのできない手つかずのままの自然が、そこには広がっていた。山に川に平野、向こうには森が、遠くには海が見え、なまえは初めて自分が生きている場所というものを実感した。

色々思うことも言いたいこともあるけれど、一先ずこの美しい景色を堪能することにした。

遠くに見える海に、太陽が沈む頃、ふと視線を感じ今剣を見ると、彼はこちらを見ていた。なまえの顔や髪が夕日に染まって、美しい玉のようだと今剣は思った。


「どうしたの?」
「なまえさま、きれい」


ぎゅうと抱き付いた今剣は、先ほどとは違い顔を上げない。今日は甘えただな、とこちらも抱き返し、その細い銀髪に指を通した。




 

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