禁断の果実

□episode. 5
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「あ、山田さんおはよう!」

「おはよう」


ロジャース家の体頑丈だから…という言葉は本当のようだった。
朝フローリングから起き上がってもあまり痛みは感じず、血もさほど出なくなった。

「山田!」

「…センパイ。」

廊下を歩いてたところで、センパイにひき止められた。

「工藤が、今オレの家にいるんだ。…なぁ、昨日の工藤…」


「あぁ。大丈夫ですよ。お騒がせしました。じゃあ、工藤センパイは無事なんですね。」

私はニコッと安堵の微笑みを溢す。

「まぁ…無事だけど、意識が戻らねぇんだ。なぁ、昨日何があったんだ?」

「…それを話すには、1から…」

「ロジャース家のこと…だろ?」


私の眉がピクッと動く。
それと同時に足も止める。

「…どこで聞いた情報ですか?」

「マジシャンなめんなよ。」

私は押し黙って廊下の地面を見る。

「…いえ、話しません。センパイがどこまで知っているのか分かりませんけど、これ以上関係のない人にベラベラ話すわけにもいきません。これ以上、センパイも私に関わろうとしないでください。」

早く…


早く、私を逮捕して、起訴してほしい。
じゃないと、このままだといつ暴走するかわからない…


私を、






助けて。







「おっ、おい…!どうしたんだよ、いきなり…!なっ、泣くなって!オレが泣かしたみたいじゃねぇか!」

あたふたと、センパイは私の姿を回りに見られないように腕を上下に動かして隠す。

「わるい、わるい!オレが気に障るようなこと言うから泣いたんだよな?」

私は言葉に出さないまま私は首を横にふる。

「ごめんなさい…失礼しました…」

私はそのまま後ろを向いて歩き出す。
これじゃただの自爆だと自分の情けなさにショックを受ける。

「あぁ、おい!待てよ!」

センパイが私をひき止めようと、肩を掴む。
力強く、でも温もりのある優しさもあった。

私は振り払おうとするが、中々離してくれなかった。

「逃げるなよ!オレが後味悪いだろ!」

すると、センパイのクラスメイトの男子がたまたま私たちの横を通る。
その瞬間、


「よっ!色男!朝からやるねぇ。」

「うるせぇ!それどころじゃねぇんだよ!」

もう、すでにこの場から蒸発してしまいそうだった。

「離してください!センパイに話すことはありません!」

「バーカ!!」

センパイのその言葉に振り返る。
眉根を寄せて、センパイを睨む。



…つもりだった。



「そんな顔見せられて、黙っていられるほどお人好しじゃねぇよ。」



私の耳元で囁く。
手から、いつしかの時のように一輪の赤いバラを出す。

私が手に取ろうとすると、そのまま手首を引っ張られ、センパイの胸に吸い寄せられる。

硬く厚い胸板が私の顔を打ちつける。


「こんなことしていいと思ってるんですか?」

私はセンパイの胸に埋もれながらそう言った。
センパイのシャツに、私の穢れた涙が滲む。


「ダメ?」


甘えたような言葉で私の心を溶かそうなどというのは、通用しない。
一筋縄でいくと思ったら大間違いだ。

「…私、べつにセンパイの事好きじゃないです。だから、いくら落とそうとしても、ムダですよ。」

“恋愛”という二文字は、考えたことがなかった。

そもそも、考えてはならなかった。
それは、殺しの邪魔になると、家族に自然と教えられていたからなのかもしれない。
でも、私自身はそんなつもりはなかった。

ただ、恋愛はしてはいけないものだとしか、インプットされていなかった。

それ以外の、何物にもない。

だから、センパイがたとえどんなことしようと、私がセンパイに恋することはない。

そう、確信している。


「別に落とすつもりはない。でも、オレはお前が好きだからこうしたくなる。オレがそういう感情に走っちゃう引き金は、お前にあるんだぜ?」

センパイが私を包み込むようにして抱きしめる。
センパイがどれ程私に好感を持っているか、容易に分かった。

「じゃあ、いつも不機嫌そうにいればセンパイは私をキライになってくれるんですか?」

「あのなぁ、そういう問題じゃなくてだな…」


すると、私の後ろから聞き覚えのある声がした。






「快斗……」


「あっ、青子…!」
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