禁断の果実
□episode. 4
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「あなた…怪盗キッドね…?」
私はいつも見るセンパイの顔ではなく、探偵としてセンパイをみる。
センパイは笑った。
「俺は警察署に行くわけにはいかない。そして、お前がもし出頭するのであれば、それを言っても後悔はしない。俺の正体がバレようが、お前を責めることもない。」
「怪盗キッド…。でも、悪くはないかもね。盗んで、それを眺めながらほくそ笑んでいるだけだし。私なんかより、羨ましいわね。…わかった。じゃあ、私は警察署に行くから。」
私はセンパイと距離をおいて一人で再びあるき出した。
すると、センパイは私の右手首をガシッと、掴んだ。
振り返ると、センパイはいつもにまして真剣な眼差しだった。
「…俺には、怪盗キッドをやる目的がある。親父の敵討ちするためだ。盗みを楽しんでいる訳じゃない。」
「黒羽盗一の敵討ち…。八年前、亡くなったのは事故じゃないのか?」
私は言葉にしながら頭のなかで整理する。
「今更こんなこと言っても意味ないけどな。それだけは、わかってほしい。」
「…わかった。じゃあ、頑張ってください。怪盗キッドさん。」
私は、さっきとは違う冷たい態度をとった。
自分でも、どうしてそんな態度をとったのか分からないが、恐らく少し裏切られた気がしたのだろう。
そして、“怪盗キッド”というフレーズは昔から嫌いだった。
何故か?
それは分からない。
きっとそれも全部私の頭から消去されてしまったのだろう。
「山田……」
か細い声で、黒羽快斗は私の名前を呼ぶのであった。
その時にはもう、私の背中は米粒ほどになっていて、その声に気づくはずもなかった。
(センパイは私に自分の正体を教えた。でも、私は言えない。)
私は掌の甲を力強い拳にかえて、スタスタと一人むなしく、暗い夜道を歩きながら警察署に向かったのであった。