禁断の果実
□episode. 2
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わたしは知らない間に、涙をためていた。
そして、わたしの耳に重く彩る蒼天の薔薇。
美しく蒼く耀く。
だが、これは偽物であり、本物ではない。
「わたし…なんで涙なんか…」
無意識に溜めていた涙を手でひたすら擦る。
すると、館内に明かりがつく。
わたしのケータイ電話が、ポケットの中で鳴り響く。
「もしもし?」
『どうやら、逃がしてしまったようですね。』
「…ごめんなさい。わたしがボケッとして居たもので…。探偵失格ですね。」
『謝ることはありません。こちらに戻って来てください。』
「分かりました。」
わたしは通話を切って歩き出す。
すると、大事な用件を忘れていた。
「あっ!センパイ!」
センパイを捜していたら、キッド捜しになっちゃってた。
…いや、センパイ=キッドだと思い捜していた。
だが、それもどうやら的はずれなのかもしれない。
わたしは一生懸命になって捜す。
「あ、センパイ!」
「なんだ、こんなところにいたのかよ。」
「早く戻りましょう。こんなときにトイレだなんて…」
わたしはそう言いながらセンパイの手首をつかんで、ヅカヅカと歩いていく。
「お前…そのピアス…」
「あっ、これ、蒼天の薔薇の模造品の方です。キッドは片方が偽物だと直ぐに見抜いて、まんまとこのわたしを利用したに過ぎないんです…。探偵としてのプライドが許せない!」
わたしはプンプンと怒る。
「でも、お前がそれつけると似合うな。」
「フォローのつもりですか?今のわたしじゃ素直に喜べませんよ。」
「いや、本当だって。ホンモノ付けたら、もっと似合うって。」
「中森センパイに言ったらさぞお喜びになるでしょうね。」
わたしは可愛くない態度を取る。
どうせわたしの気分を上々にさせようとしているんだろうけど、騙されないわよ。
「あのなぁ!言っとくけどな、オレとアイツはそう言う関係じゃねぇからな!」
「なんでそれを私に言うんですか!まるで私がセンパイに嫉妬してるみたいな言い方しちゃって…!」
「なっ…!」
そんな会話をしていると、みんなのいる部屋にきた。
私はセンパイの手首を乱暴に突き放す。
「快斗〜!あんたこんなときにどこほっつき歩いてたのよ!」
中森センパイが怒る。
その間に私は白馬探偵の元に歩み寄る。
「すみません、白馬探偵。これ…模造品とホンモノを取り替えて、後日改めて展示してほしいとのことです。」
私はピアスを外して白馬探偵の手のひらに乗せる。
「分かりました。この事は中森警部に伝えておきましょう。今ごろ、キッドのダミーに引っ掛かって、追いかけてる最中ですから。」
「なるほど…。毎回それに引っ掛かっていつもとらえ損ねるんですね。」
「はっきりいって、バカですね。」
そう話すと、無性に笑いが込み上げてきた。
そんな姿を、センパイは遠い眼差しで見つめていた。
私たちは、館内をでて家路についた。
私は自分の部屋に入ると、目の色が変わる。
「殺さなくては…」
そう呟くと、私は着替えて家を出ていってしまった。
その後の記憶は、はっきり覚えていなかった。