禁断の果実
□序章
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「君のお母さんは死んだよ。」
「……くそ、くそ、クソッ!」
私はうつ伏せのまま地面を叩く。
「私を殺さないで、とっとと先にあの世にいっちまうなんて…!」
「悔しがることはない。そして、復讐をするなどという考えを持ってもダメだ。君が大人にならなくてはならない。」
白いタキシードに身を纏った泥棒が私にそう言ってくれたのは、遥か昔の10年ほど前。
私がちょうど七歳ぐらいの時の話だった。
「私は…また孤児園なの?」
涙を必死に溜めながら言う。
「1つだけ、君に良いことを教えてあげよう。」
「?」
私は不思議そうに、その泥棒の顔を見る。
「過去は変えることのできない事実だが、未来はいくらでも自分の手で変えられる。だから、孤児園に君が入っても、そこでどう未来を自分で変えていくかが重要なんだ。わかったかい?」
丁寧で、優しく教えてくれる。
「居たぞ!ヤツだ!捕らえろ!」
「おっと。では、お嬢さん。これで失礼するよ。」
警察に見つかったそのとたん、華麗に消え去ってしまった泥棒。
私はその姿を、消えるまでずっと、ずっと見ていた。
「くそ、逃げられたか!まさかアイツが殺人を犯すなんてな。」
「殺人…?だれか殺したの?」
「あ、君!大丈夫かい?おじさんが連れていくから、ついてきなさい。」
然り気無く話をそらされてしまったが、私は気にも止めずそのまま警察のチョビヒゲおじさんにピョコピョコとついていって、案の定、孤児園に入ることになった。