novel3

□あいつは・・・
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 後から聞いた話では、あいつはまだ二十歳くらいだということだった。

 ……何故、そんなことに興味を持ってあいつと話してた奴に訊ねたのかもよくわからない。

 自分でもわからないが、無性に気になった。

 あいつの年齢とか、過去、今何考えてんのか、そんなことを。

 どうしているだろうかと。

 ……馬鹿らしい。

 知ってどうする、そんなこと。

 ……過去……。

 あいつの昔。

 少しは知っている。

 知っていることもあるって程度だ。

 『イイ女になっただろう』と言っていた。

 あいつが惚れた、15年前のスキャッグスとの抗争に巻きこまれて亡くなった、エミリーという女のこと。

 あいつは帰る場所を失くしたってこと。

 そして現在。

 カラスとして働いている。

 ……そうだ、あいつは政府の人間だ。

 年下だとわかったせいで、妙な世話焼きの心でも出たんだろうか。

 あの、出会ってすぐに殴り合いになった、ケンカを売る時のクソ生意気な強気な顔、挑発するような真っ赤な髪に、黄色っぽい目も心をむき出しにしていて。

 それに比べて、その後の、打ち解けた……わけじゃねえか、一緒に行動することにした……時の、呆気にとられた顔や、驚いた時の顔や、悔しそうな顔やら……。

 あいつはいつだって素直で。

 無邪気といえるほど正直で。

 顔に感情が出ていて。

 隠してる時でさえ、たぶん隠していることが顔に出る性質だろう。

 不器用だ。

 ……よく知らないが、何故かそんな気がする。

 それくらいわかりやすいんだ。

 だから、危ない感じがして。

 だから……手を出したくなるんだろう。

 傍に置きたくなるんだろう。

 そうに違いない。

 たぶん、弟に対するような気持ちで……。

 ……そうだろうか?

 クレソンを拾った時のような気持ちだろうか?

 クレソンは俺に『拾われた』とよくそう言う。

 それは、『救われた』というような調子で、いつもくすぐったいもんだが。

 俺としちゃそんなつもりはみじんもない。

 ただ……俺にできることがあるなら、何か一緒にできるようならとか、俺自身がやりたかったことをやっただけで……。

 『救った』とか、そんな大層なもんじゃねえ。

 一緒にいたいと思っただけだ。

 それに必要なことをしたまでだ。

 ……ただ、気持ちとしては、兄弟に近いと思う。

 俺たちは一家だ。

 家族なんだ。

 ……だが、あいつはなんだ?

 あいつに感じるのは、あきらかにそれとは違う。

 同情?

 憐み?

 ……それも違う。

 怖れずに本気で向かってきたあいつを……表情のくるくる変わるあいつを……危なっかしいあいつを……。

 傍に置いて、いつも見ていたい。

 ……何を考えているんだ。

 自分で自分に呆れ返る。

 だが……。

 ……あんなにキレイなんだ。

 キレイだと思っちまった。

 赤い髪も、あの目も、顔も。

 気に入ったんだ、あの心も。

 ……たぶん、ただ、それだけだ。

 まあ、アレだ、気に入っちまったんだ、あいつが。

 気になるんだ。

 ただ、それだけの話さ。





(つづく)
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