The Prince Of Tennis.

□家出少年の理由。
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『はぁ?』そう呆れたように溢した越前リョーマは興奮気味な目の前の相手を怪訝そうに見つめ返した。
『せやから、オカンが悪いんやって!』大きなバッグを机の上にドンッと置いて大声で話す遠山金太郎。
はぁーっと深いため息を付き、額に片手を添えて『オレに関係無いじゃん』と冷たくいい放つ。
『嫌やー、嫌やー!コシマエん所がええ』『いや、オレも嫌だし』お互いに一歩も譲らず話が進んでいかない。
大阪に住んでいるはずの遠山が越前の所に来たのは、簡単な理由で。どうやら母親と喧嘩をして家出をしてきたようだった。
大きなバッグを肩からぶら下げて青学に 現れた時には皆驚いたものである。












『どちらにしろ、ご両親にはちゃんと連絡するべきだよ。なぁ、手塚』
『うむ、そうだな。遠山、ちゃんと連絡を入れておくように』
『えー、なんでなん。嫌やー!』
『それが今日こちらに泊まる条件だよ』
『堪忍してぇなぁ』
『クスッ、ダメだよ。』










青学のテニス部部室ではガヤガヤとレギュラー陣そして遠山で話し合っており。
泊めろとせがまれている越前の話はまるで無視するかのように、蔑ろにされて話が進んでいっているのを感じた。
『ちょっと待ってくださいよ』越前の話を遮る一言で先輩と遠山の視線が降り注いだ。







『そんな勝手に話を進めてるって事は、部長たちの誰かが泊めるんっスよね?』
『いや無理だ』『悪いな、越前』
『じゃあ、オレ抜きで勝手に話すの止めて貰えます?』
『越前の言いたいことも分かるけど、もう時間も時間だからね。今日は泊めてあげて貰えると僕も安心するよ』
『自分のことじゃないからって言ってません?不二先輩』
『なぁなぁ!ええやろ、今日だけ!なっ?勝負もしようや、コシマエ〜』









なぁなぁと言いながら越前の手を取って握りしめると大波小波と腕を揺らせながら、まるで子どもの様にぐずる。
こうなってくると、越前も嫌気が差してくる。逆らうのも、拒否するのも面倒になって渋々といった様子で遠山を泊めることに決めた。
家に帰る道中も遠山は終始しゃべっており、越前はよく話すことあるなと内心驚かずにはいられないほどであった。














「ゆっくりしていってくださいね、遠山さん」
『おぉ、姉ちゃんおおきにー!』
「それじゃあ、リョーマさん。おやすみなさい」
『ん、おやすみ』








遠山を自宅に連れて帰ると、越前の家族は優しく受け入れてくれた。
夜ご飯を食べ、各々お風呂にも入ったのでテレビゲームをしながら時間を潰すことにする。
『あー!ズルいでぇ!』テレビには、越前に撃ち落とされた飛行機が写っている。
当の越前は『は?ズルなんてしてないよ。アンタが弱いだけ』といつものようにサラリと交わすことにした。
ブーブー文句を言う割には、2時間もの時間をゲームに使ってしまう。
『そろそろ寝る?』そう横目に遠山を見やると遠山は既にベッドに凭れ掛かりながらスヤスヤと気持ち良さそうに寝息を立てていた。








(おやすみ3秒…)







遠山を起こさないように気を付けながら、予め床に敷いてあった布団の上に寝転ばせる。ふわりと毛布をかけてやると『オカンのアホ〜…』と小さく寝言を溢した。
















『おーい、コシマエ!朝やでぇ、起きやー!』
『………何時』
『6時10分やでぇ、はよ起きようやぁ』
『…うるさい…一人で遊べば』
『ええ天気やさかい、外散歩しようで』
『……いや』
『なぁなぁ、ええやん!ええやん!外行きたいねん!案内してぇや!』









言うこと聞かない遠山に対して、白石蔵之助が毒手の話をチラつかせて言うこと聞かせる理由が分かった気がする。
朝が苦手な越前は、呆れながらそのまま無視して眠りにつく。
規制正しい寝息が聞こえてくると遠山は残念そうに眉を下げた。
『白石たち、何してるんやろなぁ。アカンは一人じゃつまらへん!』ブーッと頬を膨らましながら拗ねる。
ふと越前の寝ているベッドを見ると何やら気持ち良さそうに眠っているように見えてきた。
無意識にスッと手を伸ばして自分も越前に添うように布団に潜り込む。
左側に向いている越前と同じ向きになって横になり、温かさを求めてそのまま腕を越前を抱き締めるかのように伸ばす。
『ん…』小さく寝息を溢す越前を抱き締めていると段々と眠くなってきて、逆らうことなく瞳を閉じた。















『ん…暑…』モソモソと布団の中で身動ぎ、反対側へと身体を動かす。
そして、ふと違和感を感じて瞳を開けて身体を強張らせる。
『は!?』ガバッと起き上がると、はたりと越前の上から回されていたのであろう腕が落ちた。
『何でベッドいんの?』訝しげな視線を眠っている遠山に向けていると、動いた拍子で起きたのかパチリと目を開けて越前を見返す。








『おはよーさん!コシマエは寝坊助やなぁ〜』
『部活の無い休日なんだから、いつまで寝ようとオレの勝手じゃん。っていうか、アンタの寝るところ下の筈だけど』
『おー、コシマエが余りにも気持ち良さそうやから一緒に寝てもうたわー!堪忍してぇな』
『お陰で暑くて目が覚めちゃったじゃん』
『許してぇな!それよりも、コシマエ抱き心地ごっつええから驚いたでーっ』
『は?ちょ、離せよ』








ガバッと起きたかとギュッと抱き締めて、越前の肩越しに顔を擦り寄せる。
『えーやん!減るもんじゃないやろー!』と笑顔で擦りよって来る相手を止めるのも面倒になって来てしまう。
『はぁ』と溜め息を大きく付いてみるが、気にした様子もなく抱き締め続けた。
暫くすると奈々子が「昼ご飯食べませんか?」と呼びに来た。
『飯やぁ!』とドアへと掛けよって、呼びに来た菜々子よりも先に一階へとかけ降りていく。
「元気なお友達ですね」とクスクス控えめに笑う菜々子と共に一階へと降りる。
昼ご飯はサラダと焼きそばとスープで、同時に食べ始めたはずだったのに遠山の方が10分くらい早く食べ終えた。
『食べるの早すぎ』と溢すと『ワイの得意技や!』はにかむように笑うので『身体に悪そうな特技だね』とだけ返しておいた。











『ねぇ』
『なんや?コシマエ』
『帰りなよ、ちゃんと』
『嫌やてー!』
『何があったか知らないけど。』
『…ワイは怒ってんねん』









時刻はそろそろ16時で、遠山をどうにかして大阪へと返さなければいけないであろうタイムリミットが近付いていた。
『コシマエ、テニスしようや!どっかあらへんのん?』ニカッと元気な笑顔を浮かべて言う遠山を見て、このままではもう一泊パターンになりそうだと眉間に皺を寄せてしまう。
『あるよ、コート』『ほんなら、行こうでー!』パッと立ち上がって瞳を輝かせた遠山。急に軽快になったなと小さく笑い声を溢すと続くように立ち上がる。
『コシマエ、早くせんと置いてくでー!』そう言うと走って越前の自室まで行ってしまう。『置いてくも何も、コートの場所知らないでしょ』そう誰も居ない縁側で呟いてから、自室へと歩みを進めた。
部屋へ入ると既に自分のラケットと、越前のラケットを持っていて。早く身体を動かしてストレスを発散させたいという気持ちが伝わってくる。
よくよく考えると、遠山のような明るく素直なやつが反抗してこうまで行動するくらい怒らせてしまった母親の行動が気になって仕方なくもなってくる。








『喧嘩した理由は?』
『なんやねんなぁ、急に!』
『一宿一飯の恩義』
『うっ…せやかて…ワイ思い出したくあらへん』
『ねぇ。家族って英語で何て言うか知ってる?』
『えっ、えーとえーと…!あっ、Familyや!正解やろ!?』
『そう。なんでFamilyって表すか知ってる?』
『うー…なんでなん?なぁなぁ、教えてーな!』
『[father]のF、[and]のA、[mother]のM』
『ほんで、ilyはなんなん?』
『[I Love You]の頭文字をとってily。つまり、二人の愛の結晶が形となってFamilyなんだってこと。アンタ居ないの心配してると思うけど』
『…心配してるやろか』
『あまり前でしょ。早く帰って仲直りしなよ。後悔するんじゃ遅いから』
『そうやな!おおきに、コシマエー!』









ラケットを床に置くと越前へと飛び付く。
ギューッと抱き締められれば、少し鬱陶しいが心が温まるような気持ちも感じる。
何やら複雑だ。
『もう分かったから。早く帰る準備しなよ』言いながら相手の腕から逃れようと身動ぐ。パッと離され『そうするでぇ!ちょっと待っとてや!』と素早い動きで帰る支度を始めた。
実は帰りたかったけど、こちらへ出てきてしまった分少しだけ頑固にならざる終えなかったのかも知れないなと嬉しそうに支度をする遠山を見て思った。
30分後には帰る支度を終え越前家の人々に挨拶をし終わり、18時25分の電車で帰って行った。最後の最後にギュッと越前を抱き締めて『暫くこの気持ちよさ味わえへんのが嫌やー!ごっつ心地ええねんー!』と耳の横で騒いだのは言うまでもない。
そから数時間後に[家についたで!ホンマにおおきに!ごっつ楽しかったわ。コシマエ大好きやでぇ!また大阪にも来たってなぁ、案内するさかい]と元気そうな内容のメールが届いた。
[気が向いたら行く]とだけ打つと越前は送信ボタンに指を伸ばした。










後日、遠山から荷物が越前家に届き中を確認すると大量の冷凍たこ焼きと[おおきに]と書いてあるメモ紙であった。
「まぁ、美味しそうなたこ焼き」「今日の夜ご飯はこれに決定ね!」『やるじゃねぇかあのガキ』口々に話している家族を尻目に手紙を手に取ると裏側にも文字が書いていることに気が付く。












[追伸 オカンが捨てたワイの豹柄のタンクトップと同じやつをまた買うことで仲直りしたで!ファミリーやな]
『………』







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