+ Dream +

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「お疲れ様でしたー」





今日は雨。
というよりも、最近いつも雨。
梅雨入りしたからなのもあるだろうが、そんなことよりも自分が雨女なのだと理解していた。

パンッと破裂するような音を立たせて、大きめの傘を開いた。
ビタビタビタっと雨粒が当ある音が少しだけ心地いい。

いつものように帰ろうと足を伸ばすが傘の隙間から見える、目先の足に違和感を覚える。
傘を持ち上げるようにして目の前の人を確認してみれば、越前リョーマが立っていた。





『Hi,cookie girl』

「…リョーマ君」

『ここで働いてるんだ』

「何か用?」





一瞬目を大きく開け如何にも驚いた様な表情をしてしまうが、cookie girlと呼ばれた瞬間に少しだけ苛立った。
だが、大人気ない自分を心の中でせせら笑い直ぐに平常心を保とうと努力する。
彼とはあのしつこく話し合って以降、会ってなかったのだ。
私が彼を追い掛ける事はなくなったし、約束をするような仲でも無かったからである。



『別に。たまたま通ってたら、アンタが出てきたから』

「そう」

『ねぇ』

「なに?」

『雨凄いし、どっか入らない?』



確かに可愛らしい雨の量ではない。
だからと言って、前にあんな事をされた手前二人で何処かへ行く気にもならなかった。
素直に顔を横に振って断りを入れるが、彼は『んじゃ、ハンバーガー屋ね』と人の話も聞かずして目的の店へ歩みを進めだす。



「リョーマ君…ねぇ、リョーマ君ってば!」

『…何か言った?』

「私、帰るから」

『そんな離れてちゃ聞こえないよ。雨凄いんだから』



聴いて欲しいなら近くにくれば?と挑発するかのように、顎をくいっとして命令された。
渋々ながら近寄って「私、帰るよ!」と言う。
しかし、肩を掴まれて勢いよく抱き寄せられてそのまま頬に口付けされる。
傘同士がぶつかり、ぼわんっと何とも言い難い音を響かせた。
驚きと恥ずかしさで「うひゃう!?」と変な声が上がってしまった。



『この間は名無しさんに付き合ったんだから、今日はオレに付き合ってよ』

「や、あの…だから…帰るって…ば」



キスされた頬に手を添えて、リョーマ君から視線を他へとやりながら訴える。



『……何?今ので照れたの?』



クスッと笑うと、耳元で『可愛い』と言われますます恥ずかしさで俯いてしまう。
彼はアメリカに行く機会があってキスなんて挨拶なんだろうけど、私は筋金入りの日本人なのだ。
照れないなんて、無理な話な訳で。

ぎゅっと抱き締められたまま立ち尽くして5分程立ったのだろうか。
どちらも話すこと無く、ただ彼に抱き締められている。
沈黙を破ったのは、ぐううう〜と言う彼の情けないお腹の音。



「ね、ねぇ」

『ん?』

「ご飯食べに行く?」



私の問に反応するように少しだけ身体を離して『行く気になったの?』と、物珍しそうな瞳をぶつけてきた。



「行かなくてもいいなら行かないけど」

『行かないなら離さないけどね』



彼の言い草についムッとなってしまう。
そっぽ向こうとしたら、リョーマ君の肩が濡れていることに気付いてしまった。
目線だけ上へ移すと、ぶつかり合った傘から落ちる水滴が犯人らしい。
地面に叩きつけられた雨の跳ね返りで、足元も最悪に冷たい。



「分かった、行こう」



諦めた様にそう言えば、リョーマ君は傘をたたみ始めた。
「え、ちょっ…」なんて言ってる内に私の傘の中へ入って来て、私から傘の主導権を奪う。
空いている手で私の手を握っているが、これは決して手を繋いでる訳じゃないと信じてる。



「なんで」

『名無しさん逃げそうだから。捕まえておかないと』

「逃げないもん…!」

『どうだか?もういいから、早く行くよ』



尺だがこれ以上濡れるのは嫌なので、どうやら彼の言う事を聞いた方が良さそうだ。
私は彼に合わせるように静かに歩き始めた。



『あ』

「?…なに?」

『連絡先教えてよ』

「ええ…なんで?」

『オレの彼女なんだから、連絡先くらい知って当然でしょ。ほら早く』

「は!?」



携帯を奪われて勝手に連絡先を交換されている様を、私は他人事の様に見守った。
何がなんだかさっぱり分からないが、ただ一つ分かっている事がある。

私は越前リョーマに逆らえない。




何故なら私は



Cookie Girl 2
(苦手な彼にも流されちゃうチキンハート)




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