小説(弾丸)
□狛枝クンの誕生日
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2014年4月28日。
ゴールデンウィーク3日目。
…といっても、世の中はブルーマンデー。祝日でもなんでもない、憂鬱で平凡な月曜日だった。
そんなありふれた平日に、色とりどりの花束を抱えて街道を走り抜ける1人の男子高校生…日向創の姿があった。
彼が、この春の陽気の中、汗だくになりながら走り続ける理由はただ一つ。
狛枝の誕生日を祝う。
それだけだった。
それだけだったが、それだけ重かった。
なにせ、あの狛枝のことだ。何かしてやろうとすれば、ひたすら卑屈を並べて拒んでくるし(デート中に手を繋いだり、キスをするのにだってとにかく手間がかかる)、自分から進んで幸せに向かっていこうとしない。
きっと、普通に誕生日を祝おうとしても、「こんなゴミムシの生まれた日なんかどうでもいいじゃない」なんて言って、結局何もさせてくれないだろう。
狛枝は、そんな奴なのだ。
それでも。
と、日向は思う。
それでも、俺は祝ってやりたい。
自分の大切な人が生まれたという特別な日を、共に過ごし、共に喜びたい。
俺はお前に出会えて幸せなんだってことを知ってもらいたい。
いつもなんだかんだで、俺の気持ちは伝わらず仕舞いだ。
そんなのイヤだ。ちゃんとわかってほしい。
お前は、俺にとって大切な人なんだって。
…今日は、それを伝えるとっておきの日だ。
アイツが何を言おうと、ただでは倒れてやらねえからな…!
少し強い風が吹き抜ける並木道を、何か希望に満ちた笑顔を浮かべて日向は駆け抜けていった。