小説(弾丸)

□コトバはいらない
1ページ/3ページ


「日向くんは今カレーライスを食べたいと思ってる!」

 突然苗木が高らかに叫びだした。
 俺は目を丸くして苗木の方を見る。

「な、なんだよいきなり…。」

「当たり?当たりでしょ?日向くん!」

 俺の問いかけを無視して迫ってくる苗木。…なんだかいつもと様子が違うぞ。とりあえず答えておくか。えと…、カレーライスだったか?

「い、…今は食べたくないな。朝は麻婆豆腐だったし。辛いモノより、酸っぱいモノが食べたい。」

「えぇ…。」

 俺の答えを聞いた途端、苗木はがっくりと肩を落として落胆した。俺が食べたいモノを外しただけで、何でそんなに落ち込む必要があるんだ。

「じゃあじゃあ、次っ!…んむむむむーっ…!」

 なんだかよくわからないが、頭のてっぺんを俺に向けて一生懸命力んでいる。よく見ると、彼のチャームポイントでもあるアンテナがぴるぴると小刻みに震えていた。
 その様子がかわいかったので、なんとなくそのアンテナに触ろうとすると、苗木が急に真剣な表情で顔を上げた。それと同時に俺の手も強制的に停止してしまう。

「わかった…!このあと日向くんは映画館に行って、洋画を見るつもりでしょ!」

「………」

「…あれ?違った?」

「残念ながら外れだ。」

 えぇー…と、またうなだれる苗木。今のこの状況から考えて、そんな予想が出来る苗木に、俺の方ががっかりだ。

「あのなぁ苗木。今俺がなんでお前の家に居るのか、ちゃんと話したよな?」

「え?あ、うん。確か給料日前でお金がないから、外では遊べないんだよね。だから僕の家で…」

「こうやって自宅デートしてるんだろ。」

「う、うん…。」

 自宅デートという単語を聞いたとたん、苗木の顔がぽっと赤くなった。こうやって感情が素直に顔に出てしまうのも、彼のかわいいところの一つである。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ