小説(弾丸)

□【長編】ふたりぐらし #1
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 六畳のリビングに二畳のキッチン。風呂とトイレが一緒になったユニットバス。何処にでもあるようなアパートの一室。それが俺の新しい新居だ。
 普通に高校を卒業して、普通に親元から離れ、普通に1人で暮らし始める。今のご時世、何処にでもあるようなとある18歳の春だった。

 1人暮らしを始めようと決めたとき、一番頭を抱えて悩んだことは、借部屋の家賃の高さだ。アパートの一部屋を借りるにしても、その部屋代だけで1ヶ月のバイト代が軽く飛んでしまう。それではとても暮らしていけない。便秘の時みたいにうんうん唸りながら賃貸情報誌と睨み合いをし続けていると、──俺の目に奇跡の数字が飛び込んできた。

「激安! 家賃1ヶ月1万円ポッキリ!」

 即決だった。これほどまでに魅力的な見出しは、どの情報誌を探してもそう易々と見つかるものではない。間取りやら何やらを確認する時間なんて無かった。その日の内で交渉を済ませ、一週間もしない間に新居の話はすっかりまとまったのだ。
 夢の1人暮らし。それを実現させることができる。俺の胸は踊り踊っていた。
 ただ、全ての話の一番最後にアパートの大家さんが言っていた、あの言葉だけが少しだけ引っかかっていた。

「あ、そうそう。やっぱり安いだけにそれなりの理由がある物件なので、そこんとこは了承してくださいね。」

 それなりの理由。あの時はあまり気にしていなかったが(何より部屋を借りるなんて初めてのことで、よく分からない手続きなんかをずっとやらされてたもんだから)、今になってよく考えてみると、かなり重要なことなんじゃないかなと少し不安になってきた。
 実は曰く付きの物件でしたー…とか、そんな内容。…まぁそれなら、自分に害を及ぼすようなモノでなければ、特に問題はないだろう。夜中に起こされて睡眠を妨害されるようなことは勘弁してほしいが…。
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