小説(弾丸)
□【長編】ふたりぐらし #1
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「じゃあ、狛枝。他に何か覚えてることとかあるか?」
「凪斗でいいよ。」
「………。」
そう来るか。そんな嬉しそうにニッコリ笑わなくても。まるで小学校に入って初めて出来た友達と交わすような会話。コイツ今まで友達居なかったんじゃないのか?
「と、とにかく何か覚えてないのか?」
「うーん…。実は僕自身、自分が何者なのかさえ思い出せないんだよね。僕はどこから来て何をしていたんだろう。」
もしかして記憶喪失…?幽霊の上に記憶が無いとは、かなり厄介な奴だ。
「ただひとつ、覚えているこことしたら…。」
「したら?」
「…僕はおそらく、生前この部屋に住んでいたこと。…くらいかな。」
「ここに、住んでいた?」
「あまり長い期間ではなかったと思うけど、この部屋で生活していたことは覚えているよ。」
そう言って狛枝はフワッと立ち上がると、キッチンの方へ体を滑らせるように移動した。そこでシンクにそっと触れると、何かを思い出したように話し始める。
「ここにまな板を置いて、初めて料理もしたし。」
「初めて!?」
「うん。今の僕が覚えている中で、初めて。」
「あ、あぁ…。」
俺が1人で納得していると、「でも全然できなくって、結局出前のピザ頼んじゃったんだよねー。」とか呟きながら、狛枝はまたフワフワと浮遊しながら移動し始め、今度は玄関の前にしゃがみこんだ。
「ここで靴ひもが結べなくて苦労したんだよね。」
「く、靴ひもが結べない!?」
「あは。多分やり方が分からなかったんだよ。結局ひもを全部靴の中に押し込んじゃったんだ。」
…どんだけ身の回りのことをせずに育ってきたんだよ。もしかすると狛枝はここに来るまではかなりのお坊ちゃまだったのかも知れない。でなければ、相当親バカで過保護な両親が居たとか…。
俺がああだこうだ考えている内に、狛枝はいつの間にかリビングの向こうのベランダまで移動していた。慌てて俺もベランダに出る。