小説(弾丸)

□【長編】ふたりぐらし #1
6ページ/14ページ


 不思議と、彼を怖いと感じることはなかった。不謹慎かもしれないが、少なくとも今すぐ追い出してやろうとか、そんな考えは微塵も出てこなかった。それどころか、彼のことをもっと知ってみたいとすら思ってしまった。…何故そう思ったのかはわからない。
 とりあえずそいつを畳の上にそっと降ろしてやる。何一つ物音をたてることなく、正座の姿勢でヤツは地に足を着けた。俺はその前に胡座をかいて向き直る。

「あー…。とりあえず、自己紹介くらいはしておく…か。お前、名前は?」

「え、あ…。僕は、狛枝凪斗…。…歳は18…。かな。うん。」

「『かな。』ってなんだよ。」

「えと…、まだ、死んで…から、どれだけ時間が経ったのか、知らないから…。」

 そういうことか。まぁ見た目的な年齢はさして俺と変わりはなさそうだったからそこは納得した。だが死んだ後の期間の長さが分からないということが少し引っかかる。後々知らなければならなくなるかも知れないため、そこは用心しておこう。
 ついでに俺も名乗っておくことにする。

「俺は日向創だ。お前と同じで歳は18。今日、ここに引っ越してきた。」

「ひなた、はじめ…くん。…うん。覚えた。」

 そいつ…狛枝は俺の名前を反復すると、小さく頷いて少し表情を緩めた。

「えっと…、日向くんって呼んでいい?」

「別に構わないけど。」

「えへへ。ありがと。早速だけど、日向くんってスッゴい覚えやすい名前だね!」

「そ、そりゃどーも…。」

 なんかコイツ、急に馴れ馴れしくなってないか?もともとこんな奴なのだろうか。とにかく今、「ありきたりでなんの捻りもないつまらない名前だね」みたいなことをさらりと言われたことは華麗にスルーしておこう。うん。それが得策だ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ