小説(弾丸)
□【長編】ふたりぐらし #1
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「………」
しばらく俺は動けなかった。向こうもこちらを凝視し、微動だに出来ずにいる。
押し入れから零れ落ちた布団の下に居たのは、1人の青年だった。一瞬天使かと見間違えてしまったが、…人間の男だった。間違いなく。
俺と同い年くらいで、とにかく白い。白いとしか言いようがないくらい白い。髪も肌も透き通るように白かった。体を猫のように丸くし、うずくまるような体勢でこちらを見ている。
何故こんな奴が俺の部屋に居るのか?
そんなことも考えられなくなるほどそいつとの出逢いは衝撃的で、それから俺とそいつはかなり長い間、黙ったままお互いに見つめ合っていた。
その静寂を破ったのは、午後六時を告げる時計の音──電子音のアラベスクだった。その音で俺はハッと我に返り、途端そいつにつかみかかった。
「お…っ、お前っ!なんで俺の部屋に居るんだよ!?何しに来た!?どうやって入ったんだ!?」
胸ぐらを掴んでゆさゆさとそいつを揺さぶる。向こうはまだ放心状態のようで、口をポカンと開けたまま表情も変えずに俺を見ていた。
それだけで十分気味が悪いのだが、俺がそいつに感じた違和感はそれだけじゃなかった。
──軽すぎるのだ。並みの青年の体重と比べてみてもすぐに分かる。そいつは体重が異常なほどに軽い。まるで青年の大きさの布を持ち上げたような感覚だった。その異常さに、俺はまたハッとした。
「お前…、まさかお前が、…大家さんの言ってた《曰く》ってやつか?」
「…曰く?」
初めてそいつが口を開いた。儚くて、今にも消え入りそうな声で話し始める。
「…曰くって…、僕のこと…?」
「お前以外に何があるんだよ。」
「…そっか。僕、死んじゃったんだ。」
「………」
自分が死んだことをたった今自覚できたという風な物言いに、少しだけ胸がキュッと苦しくなった。
目の前にいる青年は、まぁ見た目的に少し不健康そうな色をしているが、本当は俺と同じようにこれからの人生に希望を抱きながら生きていくはずだったのかも知れない。いや、確かにそうなるはずだったのだ。その未来が突然、何らかの理由で無理矢理断ち切られた。
…彼の反応と言葉から、俺はそう推測した。