小説(弾丸)

□【長編】ふたりぐらし #1
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 ぐるりと部屋を見回してみる。思っていたよりも少し広いような感じがした。まだ家具も何も置いていない状態なので当たり前と言えば当たり前なのだが。

「よし。」

 とりあえず、家具家電を設置してみることにした。あまりお金を消費したくなかったので、引っ越しは知り合いの軽トラックを出してもらい、荷物の運搬も全て自分でやった。大きな家具を持ってきた訳ではないので、大変な作業はほとんど無かった。強いて言えば、冷蔵庫を運ぶのに少し骨が折れたくらいだろうか(物理的な意味ではなくて)。
 押し入れに布団を二式。
 リビングに小さな丸いテーブルと、テレビ台。その隣に低めの本棚。そして衣類と、それを収納する箪笥。
 キッチンに小さい冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、湯沸かし機。食器棚を置いて、数枚の皿とコップ、スプーンやフォークなどを入れていく。他の食器は、後々必要になってきたときにその都度買い揃えていく予定だ。
 最後にトイレットペーパーとティッシュを補充し、ほぼ荷物の運搬は終わった。ここまで約一時間半。なかなかの仕事っぷりだ。時給が出ないのが残念だが。
 一仕事終え、冷たい麦茶を一杯飲もうといつもの癖で冷蔵庫を開けてみたが、もちろん中身はからっぽだった。もっと言えば、コンセントもまだ繋いでいないので冷えてすらいない。…仕方ない。コンビニまで買いに行くか。ズボンのポケットに財布を入れ、部屋に鍵をかけると、アパートの外階段を静かに降りていく。
 ちなみに俺の部屋は三階建てアパートの二階にある。アパート自体がかなりの高台にあるので、ベランダからの眺めは最高だった。

 近所のコンビニで麦茶と緑茶、あと2リットルのオレンジジュースを買い、アパートに戻った。部屋の鍵を取り出し、鍵穴に差し込んでガチャリと回す。なんだか新鮮な感覚だった。これが日常になっていくのだと考えると、いよいよ俺も社会の一員になれるのだと実感し、自然と笑みがこぼれる。
 ドアノブに手をかけ、扉を開ける。少し前に家具を入れたばかりの部屋が目の前に──
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