一部

□初めてのお誕生日会
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【初めてのお誕生日会】



俺は『化け物』だからって,諦めたモノはいっぱいあった。でも、忍びになってから夢が少しずつ叶ってる。


仲間が出来て、笑うことが出来る場所が出来た。
もう、これ以上は何も望まない。
・・・そう想ってた。


確かに、そう想ってたんだってばよ?










Side.K

腕の中の紙袋が、一定のリズムで揺れる。
中には、あの子が好きそうな食べものと今日という日を祝うための材料。少し大量に買ってしまった気がするケド、ココロが弾んでそんな重さも不安も気にならない。


あの子の家に向かう途中に見えた雑貨屋さんで、誕生日プレゼントの『服』。
迷わず買って、紙袋の重さは増えた。

(んー、ナルト喜んでくれるかな?)



羽が付いたように軽々と人様の屋根の上を闊歩する。この方が早くナルトの家に着くから、つい使ってしまう道。


約一ヶ月前の俺の誕生日に結ばれた俺とナルトは、まだキスすらしていない清い関係。恥ずかしがるナルトも可愛いから大好きなんだケド、それじゃあちょっと物足りないって気持ち。
皆なら、わかるでしょ?
だから、今日こそはキスするって目標に燃えているんだよね・・・俺は。



今はちょうどお昼過ぎ。
ナルトはまだ修行してるハズだから、家にいない。ナルトが帰ってくるまでに、急いで準備しなきゃね。

ガチャ...

合い鍵使ってこっそり進入・・・。キッチンまで紙袋を運んだら、次は夕飯の準備。

(うんうん、なんかコレって新婚さんみたいじゃない?将来、どっちがお嫁さんでもいいようにキッチン事情は把握しておきたいよね・・・)


ナマモノを冷蔵庫の中にしまったら、今度は料理開始!!

そこら辺の女よりも、料理が上手いことをさりげなくアピールするにはいい機会だよね。
お誕生日って・・・。

そう思ったら俄然やる気が出てきた。
あ、お風呂の準備もしなきゃ!
修行して帰ってきたナルトに『お風呂にする?ご飯にする?それとも・・・俺?』なーんて!!




すっかりテンションが上がりきった俺は、部屋に感じる愛しい気配に気づけずにいた。










Side.N

10月10日。

俺はこの日が好きじゃない。
せっかくのお休みの日なのに、今日はいつもより人当たりがキツイから修行にも出られない。

朝から部屋のドアを、誰だかわからない奴に蹴られて目が覚める。

沈んだまま、朝食を作ろうとしたら食パンがなくてしょうがないからご飯にしたら牛乳の消費期限は過ぎていた。

こんな朝早くから店が開いてるハズないから、仕方なくテレビをつける。

辛気臭い表情で文章をそのまま読むニュースキャスターと13年前を掘り返すニュースの内容。

『化け物』
そんなのテレビで見なくたって俺が一番わかってる・・・。

毎日のように嫌がらせを受ける日々。それでも、こんな俺でも、恋人と呼べる人が出来た。

俺の上忍師で『はたけカカシ』。

とてもじゃない程似てないカカシ人形は、こんな時ばかりは俺を癒す唯一のモノ。
俺は、テレビを消して布団の中でカカシ人形を抱きながら早く一日が過ぎて欲しいと願った。







気がつくと、部屋には誰かがいる気配。
思わず身構えたけど、気配の主は聞き慣れた声で鼻歌を歌っていた。

(カ、カカシ先生?何がそんなに楽しいんだろう…?)


気になって、角から気配消してキッチンの方を覗いた。

「お風呂にする?ご飯にする?それとも・・・俺?なーんて!!」

カカシ先生は、一人で頬を染めて一人劇場の真っ最中・・・。
本当、何しに来たんだろ?
一人劇場をしながら、カカシ先生の手にはフライパンが握られてて、料理をしてるんだってことがわかったんだけど…。

先生にばれないように、こっそり近づく。
もしかしたらもう気づかれてるかも知れないけど、近くでカカシ先生を感じていたかった。
冷蔵庫の影に隠れるように、うずくまって三角座りしながらカカシ先生をジッと見つめる。




Side.K


ジュージューとお肉の焼ける良い匂い。
ナルトの誕生日に作ったのは、お子様が大好きなハンバーグ!ナルトも好きだと良いなぁ…。



今日は鼻歌も調子が良いみたいだし、機嫌が最高潮に達していた。
あっ、サラダもつくらないとね!
気がつけば、サラダの存在を忘れていた。冷蔵庫に確か、野菜がまだ余ってた・・・って、あら?


サラダを作る材料を冷蔵庫に取りに行こうとしたら、冷蔵庫の影にちょこんと座ったナルトの気配。
こちらからは、金髪の端と可愛い足の先くらいしか見えない。金髪が揺らいで、こちらを伺うかのように顔を半分を出した。
そしてまた、引っ込めた。


まるで小動物を思わせる行動に、イメージするなら悪戯っ子の子狐ちゃんかなと一人笑いを堪えてナルトを迎えに行く。
冷蔵庫は、今はスルー。
その奥にいる子狐ちゃんが今は目標。



ナルトの真正面に行くと、ギュッと目を瞑ったまま微動だにしない。ギュッと縮込んだナルトを勢い良く抱き上げて、直ぐさまホールド。

「うわっ!!」
「ふふっ・・・捕まえた!」

抱き込むと柔らかい感触。
暖かい体温。
少し肌寒くなった季節に調度いい温さ。

「ナルト君は、いつから見てたのかなー?」
「さっきから・・・///」
「ふーん?」

顔が同じ高さになるまで抱き上げて、柔らかい頬に頬ずりする。

「ねぇ?」
「なんだってばよ?」
「一緒に夕飯、作ろうか?」

少し照れたような、膨れっ面はOKの合図。
ナルトに俺がしていたエプロンを貸してあげると案の定、ブカブカでまた俺の笑いを誘ったケド・・・。
これ以上、何かいうと可愛い姿が見れなくなる気がして俺は密かに笑いをごまかすしかなかった。





Side.N


やっぱりカカシ先生に、俺のことがばれてずっと見るハズだった先生の後ろ姿を今度は真横で見ることになった。
先生の料理は手際が良くて、本当に美味しそう。それに比べて、俺が作った温野菜のサラダは・・・。


とってもまずそう…。


「ナルト、悲しそうな顔しないの」
「だって・・・」
「初めてにしては、上手に出来たじゃない」

そう言って、カカシ先生はいつもの『いい子いい子』をしてくれた。
俺ってば、この『いい子いい子』が好き。カカシ先生の手で頭を撫でられると、気持ち良くって眠たくなっちゃう。
よくパックンとかも、カカシ先生に撫でられて気持ち良さそうに目を細めてるケド、こんな感じなのかな?







「ほら!ぼーっとしてないで、ご飯たべるよ!」
「!!」

いつの間にかぼーっとしてたらしい。急いで席につく。

「んじゃあ、いただきます!!」
「・・・いただきますってば!」

二人で向かい合いながら、ご飯を食べるのは新鮮で一瞬ご飯の味がわからなくなった。

「美味しい?」
「美味しいってば!」

カカシ先生の作ったハンバーグとスープは、一楽のラーメンにも負けない程美味しかった。
俺が作ったサラダも、いつもより苦味が感じずむしろ少し甘く感じた。

「ん。サラダもきちんと食べれたね」
「うん!」

気がつけば、二人とも食事を終えていた。でも、何故かまだお腹いっぱいにならない。
戸惑いながら先生を見つめたら、先生はクスリと笑った。

「まだお腹いっぱいじゃない?」
「・・・ぅんってば」

少し気が引けてしまう。
こんなに美味しいご飯を作ってくれたのに、失礼じゃないだろうか?

「なら良かった」
「え?」
「ちょっと待っててね・・・」

カカシ先生は、そう言うと食べ終わった食器と共にキッチンの方へ戻ってしまった。







カチッ...

「!!」

急に視界が真っ暗になって、驚いた一瞬。

「♪HAPPY BIRTHDAY to YOU.HAPPY BIRTHDAY to YOU.HAPPY BIRTHDAY dear NARUTO.HAPPY BIRTHDAY to YOU.♪」

低い声で唄われたひそやかなバースデーソング。
あぁ、さっきの先生の鼻歌はコレだったってばね・・・。
初めて唄われたバースデーソングは、低い声で大好きな人の音。









ずっと望んでいた。
望んではイケナイのだと、周りの大人達から言われつづけた言葉。
幼い頃の夢は、いつしか自分で封印するようになってしまっていた。


「誕生日おめでとう、ナルト」
「・・・ひっく」

堪えきれずに涙が、膝の上に落ちる。
慌ててソレを拭っても、もうカカシ先生にはばれてしまっているだろう。…カカシ先生に、隠し事は出来ないから。

「ナルト、火付けるよ?」

暗闇の中に感じるのは、カカシ先生だけ。
俺がこくりと頷けば、カカシ先生は笑ったような気がした。

「火遁・豪火球の術!」

一つ一つに小さな火の玉を作り火をつけていくカカシ先生。
蝋燭13本は、明るく部屋を照らした。

「ほら、ナルト。願い事をしながら、火を消して」
「・・・ん」

一つ息を吸い。

「火影になれますように・・・。もっと、術が上手くできるようになりますように・・・。仲間がもっともっと増えますように・・・」

順々に消していって、最後の一本。カカシ先生をチラリと見てから・・・。

「カカシ先生とずっとずっと一緒にいられますように・・・」

フゥー・・・

火は全て消え、また辺りは真っ暗になる。パッと明かりが付いて、さっきまでの幻想的な雰囲気はもう影もなかった。


「ナルト、食べようか。」
「おうってば!」

甘いモノが苦手な先生も、一緒になってケーキを食べた。







そして、この10年後俺が望んだ夢は全て現実となった。


END.









オマケ

「カカシ先生、コレは?」
「ん?あぁ、誕生日プレゼントだよ!」

風船に彩られた部屋で、俺は大きめの袋を手にしていた。

「開けてもいいってば?」
「いいよ」

そう言って、ニッコリ笑うカカシ先生に見守られながら綺麗な包装紙を開いいくと…。

「・・・カカシ先生?」
「ジャーン!!メイドな服なんだよ!」

嬉しそうに照れたのは、勿論カカシ先生だけだった。


ちゃんちゃん♪


20111010 贈呈
20111006 完結

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