黒バス

□【All happiness on your Birthday】
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『なー宮地サン』
『あ?』

日の差し込む渡り廊下で声を掛けると、気怠そうな返事。壁に凭れる宮地サンを見上げて、ニッと目を細める。

『明日、なんの日か覚えてますよねー?』
『あー…っと、誕生日か』
『流石ぁ、イケメン彼氏は違うねぇ』

軽口を叩くと、床に座り込む俺の頭に鈍い痛み。

『ってぇ!!』
『お前が煩いから自然と覚えたんだよ』

そう言う彼を見上げるが、ここからでは表情は伺えない。

『零時ピッタリにメールくれるんですよね?』
『は?お前そういうの自分で言うか?』
『えー、だって言わなきゃ宮地サンやってくれねーもん』
『はいはい……』

溜め息混じりのそれにまたチラリと見上げるが、見えるのは日に透ける薄茶と黒い学ランのみ。目線を足許に落とせば、溜め息になり損ねた息が漏れた。

『……さみぃな』
『…っすねー……』



****



静かな部屋に時計の秒針の音だけが響く。ベッドの上で携帯を見ると、気の早い友人達からは既にメールが来ていた。俺の誕生日を祝う言葉を眺めながら、部屋の置き時計をチラチラと盗み見る。時刻は二十三時五十五分。一人の部屋で誰に見られている訳でも無いのに、じっと見てるのはなんだか女子みたいで恥ずかしい、と目を逸らす。が、また気になって横目で確認してしまう。

「………あーあ」

俺、なにやってんだろーな……。
溜め息が漏れる。
一番欲しい『おめでとう』が一番に欲しかった、なんて。やっぱり我が儘かな。きっとあの人は祝ってくれるけど、流石に零時ピッタリにメールを寄越すなんて可愛らしい事はしないだろう。…俺の恋人は素で恥ずかしい事をする癖に、俺が本心から望む事は恥ずかしがってしてくれない。とんだツンデレだ。まぁそんなとこも好きなんだけど、と一人笑みを溢すと、唐突に携帯がけたたましい音をたてた。

「うおっ!?」

着信を告げるその音にびくりと肩が跳ねる。速まる鼓動を抑えながら携帯を見ると、今考えていたその人の名前。一段と大きく心臓が鳴る。少し震えている気がする指で液晶を操作して、耳に当てる。

「…もしもし」
『あー高尾?俺だ』

いつもと同じ少し低めの声。これは直接言って貰えるのかと、知らず心が騒ぎだす。
声が跳ねないように注意して、惚けたように返事をする。

「どーしたんすか、宮地サン。俺もう寝るとこだったんすけどー」
『それは悪かったな。お前ちょっと外出て来い』
「は?」

予想外の言葉に間の抜けた声が出る。そんな俺を無視して宮地サンは勝手に言葉を続ける。

『五秒しか待たねぇから。早くしねぇと轢く』

物騒な言葉を最後にブツリと通話は切られてしまう。一瞬固まったが、もしかして、という考えが頭を過り、無意識に足を動かしていた。



****



ガチャン、と玄関の扉が開くと、見慣れた黒髪が覗く。

「よう高尾」
「……何、してるんスか」

片手を上げて声を掛けると、信じられないとでも言いたげな顔で寄ってくる。慌てて出て来たようで、薄手の寝間着姿だ。
それに薄く微笑みながら、すぐ側に来た硬質な黒髪をくしゃりと撫でる。

「何って、かわいー恋人の誕生日を祝いに来たんだよ」

そう言えば、さっと頬に朱が差す。自分からは色々言う癖に、こいつは変な所で照れる。

「……宮地サンのそーゆーとこ、ほんっと質悪い」
「は?」
「いーえ、なんでもありませんっ」

拗ねたように目を逸らす。でもまだ顔が赤いので、ただの照れ隠しだろう。
俺はそんな高尾を無視し、下げていた紙袋からプレゼントを取り出す。そして、まだ此方を見ない男の肩にふわりと掛けた。

「……へ?」

それは、ゆったりとしたミルクティー色のニットカーディガン。肩口のそれを見て、高尾がきょとんと俺を見上げる。その様子に、 自然と頬が緩むのが分かる。向けられる黒の瞳をじっと見詰め返して、囁くように告げる。

「誕生日おめでとう、高尾。生まれてきてくれて、ありがとう」

一瞬の、間。その後、高尾は耳まで真っ赤に染まる。

「ばっ…ちょ、マジか……」

腕で顔を隠しながら狼狽える様子を見て、こっちまで恥ずかしくなってきた。浮かんだ言葉を素直に伝えたが、今思い返すとかなり恥ずかしい台詞を言ってしまった気がしてきて、今更ながら顔に熱が集まる。
うおお……やべぇ………。

「………あ、の」

高尾に釣られて両手で顔を覆っていた俺だが、微かな声が聞こえて指の隙間から視線を向ける。
見えたのは、ぎゅっとカーディガンの裾を握りながら俯く小さな姿。

「……ありがとう、ございます」

目線は決して此方には向けず、頬は赤いまま。
ほんっとこいつは、

「反則だよなぁ……」
「え?、わ!」

ぐっと抱き寄せて、腕の中に閉じ込める。高尾は一瞬身体を強張らせたが、すぐに力を抜いて体重を預けてくる。
こういう所は、随分素直になったなと思う。最初は羞恥を冗談に隠して逃げられてばかりだったから。

「……プレゼント、喜んで貰えた?」
「あ、はい」

少し身体を離すと、高尾は肩に掛けていたカーディガンに袖を通した。その姿を見て、俺は少しだけ唸った。

「やっぱデカイな」

元々ゆったりとした作りの物だが、裾や袖が少し長い。

「っすねー……。でもこんくらいの方が暖かいし」

そう言うと、高尾は袖を頬に当てた。幸せそうな顔で顔を埋める。

「……そーか。つかお前、あんまり可愛い顔してると襲うぞ」
「はっ?意味分かんねーし!!」
「うっせぇよ。ま、似合ってっし、喜んで貰えて良かった」

そう言うと、高尾はくるくる回りながらホントに似合うー?と訊いてきた。きっとそれは、また少し赤くなった頬を隠す為なんだろう。

「おーおー、似合ってる。ちょーかわいー」
「きゃー、高尾困っちゃーう」

二人でクスクスと笑い合って、またぎゅっと抱き締めた。今度は高尾も俺の背に手を回して、力を込める。さみーさみーとまた騒ぎながら、ぎゅうぎゅうと抱き締め合う。
なんだか高尾も俺も浮かれていて、俺は高尾に釣られて普段では考えられないような笑いを溢れさせていた。それを見て、高尾も楽しそうに笑う。場を支配するふわふわと浮かれた空気に、来年も再来年も、こうやって祝ってやりたい、なんて甘い感情が溢れた。



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誰おま状態とか言っちゃ駄目。
初宮高だ〜!!この二人超好きです。
また書きたいなぁ。




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