黒バス

□探偵&警察パロシリーズ
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【舞踏会潜入&赤司女装事件】


「………和成。聞こえるか?」
『はいはーい。こちら高尾ちゃんでっす。感度良好。征ちゃんのカワイイ声が良く聞こえるよー』

何時もと同じ軽い口調。和成の明るい声がインカムから流れて来る。今日何度目か分からない溜め息を吐きながら、自分の格好を見下ろす。何度見ても変わらないそれに、再度溜め息を吐いた。

『憂鬱そーだねー、舞華ちゃん?』
「……煩い。その名前で呼ぶな」
『きゃー!怖いよー!助けてテッちゃーん!!』
『…はぁ。ちょっと静かにしてくれませんか?高尾くん』

和成のわざとらしい裏声に続き、落ち着いた、でも何処か不機嫌そうな声が聞こえる。

「テツヤ、そっちはどうだ?」
『………………別に……』
「お前は何処の女優だ。全く、これから仕事という時に、何でそんなに不機嫌なんだ?」
『さっきバニラシェイク飲もうとしたら、時間無いからって室ちんに取り上げられたからだよね〜』
「………敦か」

僕の問い掛けに答えたのは、テツヤじゃなくて敦だった。変わらないのんびりとした口調に、頬が緩む。

『え、そんなに怒ってたの?』

そこに割り込む辰也さんの声。少し驚いている様だ。

『当たり前でしょう。この僕がバニラシェイクを取られて怒らないとでも思ったんですか?』
『いやぁ……。ごめんごめん。この仕事終わったら、幾らでも奢ったげるから。ね?』
『マジですか分かりましたこの仕事全力で終わらせます』
『ちょwwwwwwテッちゃんwwwwテンションwwwwwww』
『室ちんいいの〜?黒ちん、バニラシェイクならスゴイよ?』
『………赤司くん助けて』
「自業自得でしょう。僕は出しませんよ」

何時もと変わらない、賑やかな会話。インカム越しでもみんなの顔が見える様で、少し安心する。

『……っと、そろそろ時間だね。高尾くん』
『あいさー。そんじゃ皆さん、準備はオーケイ?』
『はい、バッチリです』
『何時でもオッケーだよ〜』
『それじゃ、赤司くん』

少し緊張感の滲む四人の声。全員の準備が整った事を確認し、僕は其々の役割を確認する。

「今回の仕事は、旧華族の令嬢、月宮舞華嬢に代わり、旧家のみが参加出来るというパーティーに参加し、月宮の名を上げる事だ。表向きはな。本当の任務は、パーティーに参加する者の中に交じる、不正に警察とのやり取りを繰り返す犯罪者を炙り出す事だ。奴等は、金に物を言わせて身内から出た犯罪者の犯罪履歴を揉み消したり、裏で銃の横流しを行っているらしい。これ等の犯罪の証拠を掴むんだ。後、これは政府からの依頼だ。深追いはしない様にな」
『了解。で、今回の役割は?』
「まず、和成は何時も通り、別室で司令役。場合によっては会場にも来て貰う」
『イエッサー♪』
「テツヤは会場の監視。目立たない様にウェイターで」
『目立てって言う方が無理なんで安心して任せてください』
「敦は出入口の監視。此方も不自然じゃない様に警備員に扮して」
『立ってるだけだし超楽〜』
「辰也さんはパーティーの参加者。偽名を使ってるので、バレない様にしてくださいよ」
『分かってる分かってる。楽しそうだよね〜』
「そして、僕が…何故か……月宮舞華役…………」
『『『『似合ってるよ、舞華ちゃん☆』』』』

四人同時に言った後、一斉に吹き出す。
そう。僕は今回、女装している。僕はテツヤにやらせ様としたが、何故か四人にやらされてしまった。理由としては、舞華嬢は深紅の髪で、背格好も僕と似ているから。そして、旧家の令嬢の言葉遣いや振る舞いなんて、僕しか分からないから、というものだった。別に身長はテツヤと余り変わらないし、髪だってウィッグを被れば分からない。振る舞い何て少し教えれば大丈夫な筈、なのに…。

『まぁまぁ。可愛いですよ、舞華さん』
「……嬉しくない」
『ほら、拗ねて無いで。もう始まってるんだから、早くおいで』
『んじゃ、いってらっさーい』
『頑張ってねぇ〜、赤ちん』

辰也さんに促され、渋々扉に向かって歩く。長い廊下を歩いて行くと、疎らだった人影が増えて行く。軽く会釈をしたりして進み、扉の前に立つ。一枚の扉を隔てた向こうは、別世界だ。

「…行くぞ。任務開始だ」

インカムに向かって囁いて、前を見据える。二、三メートルはありそうな両開きの扉が、両脇に控えるウェイターの手によって開けられる。扉を潜り会場に一歩踏み出すと、輝くシャンデリアが目に入る。流れるのは一流オーケストラの生演奏。それに合わせ、ステップを踏む沢山の人間。
良くもまぁ、この不景気の時代にこれだけの物を用意出来たものだ。
会場を見渡し、目的の人物を見付け、近寄る。

「失礼。貴方が日宮様でしょうか?」

華やかに着飾った女性と談笑していたその人は、僕が声を掛けると、会話を中断し此方を振り向いた。一目で良い仕立てだと解るスーツに身を包み、穏やかな微笑みを浮かべたその人。
この人が、このパーティーの主催者……。

「えぇ、そうですが……。失礼ですが……?」
「あぁ。申し遅れました。私、月宮舞華と申します」
「あぁ、月宮のお嬢さんでしたか!初めまして」

少し高めの声で控えめに挨拶してみせる。耳許で和成の笑い声が聞こえるのは気のせいだと言い聞かせる。
僕が名乗ると、向こうも友好的な態度で、手を差し出された。握手、という事だろう。指先だけを差し出し、やり過ごす。

「どうも。宜しく御願い致しますわ」
「えぇ、此方こそ。今日は楽しんでいってください」
「有り難う御座います。是非そうさせて頂きますわ」

笑みを浮かべながら会釈する。
日宮から数メートル程離れると、和成の爆笑が聞こえた。

『っく、ははははははは!!!!!!』
「………和成、笑い過ぎだ」
『だ、って…!!!くく……だ、ダメだ……』

苦し気に息をするのが聞こえる。少し待つと大分落ち着いた様で、話し掛けて来る。

『はー……。てか征ちゃん、ほんっと無駄に優雅だね。さっきの礼とかさ』
「頭を下げる時は指先でスカートを軽く摘まみ、ドレープを美しく魅せながら。これが伝統的な美しい礼の仕方だ。因みに角度は少し目が隠れる程度が一番美しい」
『ほぇー……』

感心した様な声。この程度、一般常識だろうに。

「さて……」

証拠探しを始めなければ。
誰か適当な奴を見付けて吐かすのが一番楽か……。

「そこのお嬢さん」

考えを巡らせていると、後ろから声を掛けられる。
お嬢さん、か……。それにしても、何か聞き覚えがある様な……?

「一曲、御願い出来ますか?」
「……………え」
『……赤司?』

振り向くと、そこには見知った姿。何時もの緩いスーツでは無く、しっかりとしたドレスコード。普段は下ろしている前髪を上げていて、印象が変わっている。
思わず小声で呟いた。

「黄瀬…涼太……」
『は?え、マジかよ!?』

和成の慌てた声。テツヤ達に連絡する声が遠くで聞こえる。
僕は、何で警察がこんな所に居るのか、とか、そんな疑問も忘れて、ただ見いっていた。
何時もはバタバタ煩くて子供っぽいのに、今は仕種も言葉遣いもちゃんとしていて、大人っぽい。

「………カッコイイ…」
「え?」
「あ、いえ!何でも有りませんわ」

思わず口にした言葉。隠す様に微笑めば、もう一度誘いを掛けられた。

「御願い、出来ますか?」
『赤司、適当にやり過ごせ!取り敢えず黄瀬から離れるんだ』
「………。」

緊迫した雰囲気の和成。目の前には優しい微笑みの黄瀬。この様子だと、僕だとバレてはいない様だ。僕は暫く黄瀬を見て、結論を出した。

「……構いませんわ。但し、一曲だけでも宜しくて?」
「勿論。こんなに可憐な方に御相手して頂けるだけで光栄ですから」

ニコリ、と嬉しそうに笑う黄瀬。嗚呼、幾ら着飾っていても、やっぱりこの笑い方は変わらない。
差し出された手を取る。すると、優しく手を引かれ、エスコートされる。

「ごめんなさい。ダンスは苦手なの」
「構いませんよ。私も、余り得意ではありませんから」
『赤司?なぁ、大丈夫……』

途切れる和成の声。黄瀬が前を向いた隙にインカムを切ったからだ。
これで、もう誰にも邪魔されない。

「あら、余り得意では無いのなら、何故御誘いになったの?」
「それは………」

言い淀む黄瀬。一度目を逸らせてから、今度は真っ直ぐ僕の目を見た。

「余りにも貴女が美しかったから。話してみたいと思ったんですよ。すみません、こんな奴で」

…………うわ。何、それ。
照れた様にはにかんで、僕を見る。
嗚呼、駄目だ。心臓が煩い。

「………そんな事。嬉しいですわ」
「……優しいんですね」
「さぁ。どうでしょう」

止まっていた音楽が、また流れ出す。それに合わせ、ゆっくりと踊り出す。思いの他黄瀬は踊れる様で、しっかりとエスコートしてくれる。さっき僕が『苦手』と言ったのを気にしてくれているのだろう。

「貴方の方が優しいんじゃなくて?気を使って、リードしてくれている」
「違いますよ。貴女が御上手なんです」
「まぁ、さっきから口が御上手ね。苦手と言っていた割に上手いのは、貴方でしょう」
「………あの」
「何でしょうか?」
「御名前…伺っても、いいですか……?」
「……人に名前を訊ねる時は、自分から名乗るものでは無くて?」
「あ、ごめんなさい……。えと、黄瀬涼太です」
「………月宮舞華と申しますわ」
「月宮…舞華、さん……」
「そんなに不思議な名前ですか?」
「あ、いえ……。貴女にぴったりな、綺麗な御名前だなぁと」
「まぁ…。本当に口が御上手。歳は幾つ?」
「二十一です。月宮さんは?」
「舞華で構いませんわ。私も二十一です」
「じゃあ同い年……」
「そう。だから、無理して敬語で話さなくてもいいわよ?涼太くん」
「う……。バレてた?無理してるって」
「えぇ。でも、少し言葉を交わした程度では分からないと思うわ」
「良かった…。オレ、敬語何て普段使わないから…」
「まぁ、そうなの?こういった場に出たりは?」
「初めて。今日はちょっと、仕事で……」
「仕事?どういった職種かしら」
「………ちょっと、ね」
「あら、此処まで来てだんまり?それはちょっと、酷なんでは無くて?」
「………舞華ちゃん、」
「やっぱり、出会って数分の無垢な御嬢様には話せない?」
「ごめん、オレ……」
「そうよね。捜査の為なら汚れた事でも何でもする、政府の犬みたいな警察です、何て、こんな御嬢様には言えないでしょうね」
「………………え?」


嗚呼、シンデレラの時間は、終わりだ。



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