黒バス

□【蜂蜜の様に甘い朝は如何?】
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午前八時過ぎ。
都内の少し中心からは外れた静かな土地にそびえ立つ、高級マンションの一室。
まだ朝の静けさを少し残しつつも目覚め始めた街から切り離されたかの様な最上階にあるこの部屋は、甘い匂いに満ちている。
黒いウエストエプロンをしてキッチンに向かう。このエプロンは、料理が好きな僕に恋人がプレゼントしてくれた物だ。
何時もより少し遅めの朝食を準備しながら、僕は欠伸を噛み殺した。

「…眠い……。こんなに早く起きたのは高校以来かな………」

そう呟いて、まだ僕のベッドで寝息をたてる恋人の事を考える。
僕の部屋に泊まった時は、必ず低血圧で朝に弱い僕より早く起きて朝食の用意をしてから優しく僕を起こしてくれる恋人も、今日は珍しくゆっくりとしたお目覚めだ。大学に通いながら小説家を目指す彼は、明日が賞の締め切りらしく恋人の部屋に泊まりに来たと言うのに、夜遅くまで原稿用紙と向き合っていた。執筆に忙しいと最近構って貰え無かったので、無理に泊まりに来させたがやっぱり構って貰え無くて。寂しいから添い寝して?と珍しく素直に甘えてやったのに、後少しなんで先寝てていいですよ、何て素っ気無い事を僕を見もしないで言ったので、流石に腹がたって本当に先に寝てやろうとベッドに入り目を閉じた。が、段々本当に淋しくなって来てそっと様子を伺ってみると、何とか書き上げたらしい原稿をそのままに突っ伏して眠っていたものだから、呆れて溜め息も出なかった。そのままでは風邪を引くので、そっと抱き上げてベッドに移した。それから僕も隣に身体を横たえて、執筆活動でお疲れの愛しい恋人に、甘い朝食でも作ってやろうと決心したのだ。

「……………が、想像以上に辛いな……」

フレンチトーストの焼き目を見ながら再度呟いた。
料理を作るのは慣れているし好きなので苦では無いが、早起き、というものは僕にとっては非常に辛いものだ。何時も朝は弱く、起きても暫くはぼうっとしている。それを時間を掛けて目覚めさせてくれるのが恋人の仕事だ。だが今日は僕が先に起きなければ意味が無いので、携帯のアラームで必死に脳を覚醒させた。
…………今日の講義、起きていられるかな……。

「ふあ………」

止まらない欠伸を噛み殺しながら、フレンチトーストを皿に盛り付けた。彼の好きな、蜂蜜たっぷりのフレンチトースト。これにまだ大量の蜂蜜をかけるのだから、彼の甘いモノ好きには驚かされる。彼のココアと僕のコーヒーを淹れる為の湯をセットし、やっとお寝坊さんな恋人を起こしに行く。



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