黒バス

□【君が好き】
1ページ/1ページ




休日の午後特有の緩やかな時の流れの中の僕の部屋。
僕のベッドに寝そべる赤司くん。そのベッドに寄り掛かって本を読む僕。
何処までも穏やかで、何者にも侵されない静かな空間。

「なぁテツヤ?」
「はい。どうしました?」

周りに人が居る時とは違う、甘く優しい声音の赤司くん。本から目を離さず返事をすると、不満そうな声が聞こえる。

「僕が呼んでるんだから、ちゃんと此方向け」
「はいはい。何ですか、赤司く……あ」
「あーあ」

声がする方へ振り向くと、真後ろに悪戯っぽく微笑う赤司くん。

「二人っきりの時は名前で呼ぶって約束だったよな?テツヤ」
「う………ごめんなさい」
「許して欲しい?」

くすくすと笑う赤司くん。その表情は柔らかくて、幸せに満ちている。

「お願いします、征十郎くん」
「どうしようかな?」
「もう……。意地悪ですね」

苦笑して見せると、征十郎くんは微笑みのままそっと顔を寄せる。

「キスさせてくれるなら、考えてあげてもいいよ?」

征十郎くんの長くしなやかな指が僕の頬を優しく撫ぜる。そのくすぐったさと心地好さに目を閉じる。
僕はこの瞬間が一番好き。征十郎くんがそっと僕に触れる時、僕にしか見せない甘く優しい、幸せそうな表情を見せてくれる。そして、誰よりも何よりも愛され、大切にされている、と感じる事が出来るから。

「ねぇ、テツヤ、キスしてもいい?」
「駄目って言っても聞かないでしょう?困った人ですね……」
「流石僕のテツヤ、良く分かってるね………」
「ふふ、当然じゃないですか………………ん、」

くすりと笑えば、もう待てないと言いたげに口を塞がれた。優しく優しく、唇を重ねる。角度を変えて繰り返される口付けに、酸素が欲しくなって少し唇を離した瞬間、ニヤリと笑う征十郎くんの口許が見えた。その一秒後には、隙有り、と言わんばかりに口付けを深くされる。

「……っん、……ちょ………ぁ、……かし、く…っ…………わっ」


ドサリ。


その音は、ふわふわと漂う様だった僕の意識を覚醒させ、とろけてしまいそうに甘かった空気を打ち消した。
音の正体は、赤司くんがベッドから落ちた音。赤司くんがキスをしながら僕に体重を掛けていた為、僕がバランスを崩してしまい、二人して床に倒れこんでしまったのだ。

「……………痛い」
「でしょうね。でも君が悪いんですよ?」
「支えきれないテツヤが悪い」

体を起こしながら不服そうに反論する赤司くん。が、途中でピタリと動きを止めた。

「………?」
「……………この体勢、いいね」
「え?」

そう言われ、自分と赤司くんの体勢を改めて確認する。赤司くんが落ちて来た為、僕は自然と組み敷かれる様な体勢。そして赤司くんは、起き上がる途中で動きを止めた所為で僕を押し倒した様にも見える体勢になっている。

「…………はぁ」
「………もうちょっと何か無いのか?」
「そう言われましても………」

特に何も無い。そう思いじっとしていると、そのままの体勢で赤司くんが悪戯っぽく、でも何処か甘く、微笑んだ。それを切っ掛けに、空気がまた甘いものに変わる。

「テツヤ………。さっき『赤司くん』って呼んだだろ」
「あ」
「……まさか無意識か?全く………僕の恋人はうっかりさんだね」
「………ごめんなさい、征十郎くん」

ちゅっ、と軽い音を立てて頬に唇を落とされる。くすぐったさに目を閉じれば、ぐい、と引っ張られ体を起こされる。少し上に目をやれば、至近距離に征十郎くんの顔。

「許して欲しい?」
「お願いします、征十郎くん」

先程と同じやり取りに、二人共同時に笑い出した。
二人してくすくす笑った後、征十郎くんは優しく僕を抱き締めた。

「テツヤ……僕の名前、呼んで」
「………征十郎くん」
「うん。もっと」
「我が儘ですね……」
「駄目かい?」

楽しそうな彼の声に、思わず笑みが溢れる。

「征十郎くん」
「………うん。僕はね、テツヤ」
「はい」
「テツヤに名前で呼んで貰うのも、テツヤって呼ぶのも、大好きなんだ。とても大切で愛しい、唯一無二の存在に触れて、触れられている感覚………。解るかい?」
「はい。解ります」

言ってから気が付いた。
あぁそうか。僕にとって、征十郎くんに触れられる事が至福である様に、彼もまた、名を呼ばれる事でその至福を味わっていたのだと。

「だから、ちゃんと名前で呼ぶんだよ?テツヤ」
「分かりました。征十郎くん」
「うん。いい子だね………」

そう囁くと、征十郎くんは僕を抱き締めて、そっと口付けた。





何処までも穏やかで、何者にも侵されない静かな空間。
僕と彼が至福を感じる、甘く優しい、ある日の午後。



―――――――――――――――

甘っ!って書き終わって思いました(笑)
ここまで甘いの初めて書いたので、
自分で戸惑いました。
因みにこれ、続きます(笑)




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ