犬鬼灯

□第3話 サービスの時間
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「あれ?」

本校舎の廊下を歩いていると、向かいから烏間さんと、男の人(服装から見て防衛省の人だろう)が歩いてきた。

「烏間さんじゃないですか。何してんです?こんなとこで。」

「日向に月乃か。少しここの理事長に用があってな。お前達のほうこそどうした?よっぽどの事がない限りE組の生徒が本校舎に呼ばれたりしないだろう?」

「あー、理事長にちょっと呼び出されちゃいまして。今はその帰りです。」

「そうか。」

「じゃ、引き止めてすいませんでした!」

烏間さんに別れを告げ、嫌な予感を感じながらE組校舎に戻るべく昇降口へと進む足を早める。

口の中の飴がなくなったのに気付き、ポケットから新しい雨を取り出し、包装紙を少々乱暴に破って、口の中に放り込む。

「相変わらみたいだね。」

聞こえた声に珍しく表情が歪むのが分かり、慌てていつもの笑みを貼り付ける。

「あっは、相変わらずなのはお互い様でしょ!っていうか、何の用だよ。“E組ごとき”に。」

無意識の内に声のトーンが下がり、目の前のそいつを見据える。

「はは、酷いなあ。久しぶりに見かけたから声かけたのに。」

「そりゃどうも。じゃあ急いでるからどいてくれない?浅野。」

浅野学秀。理事長の息子で、あたしが最も忌み嫌ってる男である。さっき舐め始めたばかりの飴を噛み砕く。

「日向、また理事長の頼み、蹴ったんだって?せっかく登校する気になったんだから、本校舎に戻ってくればいいのに。君達の実力なら余裕だろう?」

「嫌だね。ここは面白くない。あたしは結構E組が気に入ってるんだよ。」

「へえ、珍しいね。君が執着するなんて。」

「そうでもないよ。ていうか、本当に急いでるからどいてよ。」

「ああ、引き止めてごめん。」

終始喰えない笑顔のまま、浅野は道を開ける。










「ねえ、ずっと気になってたんだけどさ。」

「何?」

暗梨に対し、飴の包装を破きながら答える。

「何であそこまで浅野を嫌うんだい?」

「……さあ、何でだろうねぇ。」

そう言うと暗梨はそれ以上は何も詮索せず、黙りこむ。おそらく言いたくないんだと判断したんだろう。

あながち間違いではないが、別に秘密って訳でもない。大した理由でもないしね。

なんてことはない、ただの同族嫌悪だ。

似てるんだ、あいつとあたしは。人の上に立つべく育てられてきた。
あの負けないという自信も。人を喰ったような笑顔も。全部全部大嫌いだ。

ああ、でも、あいつはあたしと違って支配者であることに執着している。それが、唯一の救いでもあって、更に気に入らないことでもある。


本校舎に戻らないのか?

冗談じゃない。

そんなことしたらあいつと顔を合わせる確率が高くなるじゃないか。そんなこと、まっぴらごめんだね。
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