犬鬼灯
□第2話 野球の時間
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「はぁ…。」
「随分と落ち込んでるんだね。」
後ろから声をかけると、杉野君はこちらを見上げ、驚いたように目を見開いた。
「月乃…。今日は日向と一緒じゃないのか?」
「そんないつも一緒にいるわけじゃないよ。」
芝生に座る杉野君の右隣に腰を下ろす。
「…昨日、見てたよ。」
それだけで彼には何のことか分かったようだ。
「それで?暗殺失敗した俺を笑いに来たのか?それとも慰めに?」
自嘲するように笑いながら言う杉野君。
「まさか。笑いに来るほど私は外道じゃないし、慰めに来るほど優しくもなければそんな暇もない。」
いつものように、淡々と、無表情で。
「じゃあ、何で。」
「少し気になったからね。暗殺失敗するのが別に初めてってわけじゃないだろ?皆失敗してるわけだし。それなのに少し落ち込みすぎじゃないかなって思ってさ。」
話したくないなら別に無視してくれていいよ。
そう付け足して口を閉じると静寂が訪れる。
「俺は…」
言おうとしたその時、杉野君の左隣からニュッと触手が伸びてきた。
「磨いておきましたよ杉野君。珍しいですねぇ、君達二人の組み合わせとは。」
「…殺せんせー。何食ってんの?」
「昨日ハワイで買っておいたヤシの実です。食べますか?」
「飲むだろフツー。」
「先生はどうしてここに?」
「おそらくは君と同じ目的でしょうねぇ。」
ニヤニヤと、いつもの顔でこちらを向く殺せんせー。嫌いなんだよなぁ、こういうの。何考えてんのか分かんないし。
「昨日の暗殺は良い球でしたね。」
「よくゆーぜ。考えてみりゃ俺の急速でマッハ20の先生に当たるはずねー。」
「君は野球部に?」
「前はね。」
「前は?」
「部活禁止なんだ、この隔離校舎のE組じゃ。」
…それは、初耳だなぁ。校則なんて碌に目通してないし。
「成績悪くてE組に落ちたんだから…とにかく勉強に集中しろってさ。」
「それはまたずいぶんな差別ですねぇ。」
「…でも、もういいんだ。」
――もういーや――
似てるな、あの頃の私や…雫に。
「昨日見たろ?遅いんだよ、俺の球。
遅いからバカスカ打たれて、レギュラー降ろされて。それから勉強にもやる気無くして今じゃエンドのE組さ。」
「杉野君。」
いきなり口を開いた私に驚いたようにこちらを見る二人。
「あまり、何かにとらわれないほうがいいよ。」
意味が分からない、と言った顔をする杉野君とは対照的に、先生は若干満足そうなニヤニヤにして言った。
「杉野君、先生からもアドバイスをあげましょう。」