犬鬼灯
□第1話 暗殺の時間
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「スイマセン遅れましたー」
反省など微塵も感じさせない態度で一人の女生徒が入って来た
その姿にほとんどの人間が誰だ、と思う。
彼女の事を知っていても、顔を覚えている者は少ないだろう。
覚えていなくても無理はない、彼女は入学してから数日しか学校に来ていないのだから。
「あなたは日向さんですね?いけませんね。学校にはちゃんと来て下さいよ」
「はは、これからは来ますよー。」
「まあ、良いでしょう。で、月乃さんはやはり休みですか?」
「え?ああ、暗梨ですか?さあ、来るかもしれないし、来ないかもしれませんねぇ。」
先生の問いに愉快そうに笑いながら、からかうように言った後、今度は思いついた、とでも言うように人差し指をたて、言った。
「あ、そうそう。センセー、遅刻したお詫びと言ってはなんですが、」
そこで一旦区切り、
「殺してあげますよ!」
語尾に音符でもついてるんじゃないかというほど明るい声音で言うと同時に、サッと扉の前から退く。
と、その後ろには銃を構えた暗梨の姿.
パパパパパパ
教室内に銃声が響く。
流石に先生も焦ったようで冷や汗を流しながら、しかし確実に避けていた。
ヒュッ
銃声とは違う、何かが空を切る音がした。
暗梨に気を取られた先生の背後にナイフを振りかぶった雫の姿
先生は間一髪のところでそれを避ける。
シ…ン
静まり返る教室。
それを破ったのは雫の明るい声だった。
「ありゃりゃ、よけられちった。」
きょとんとした顔をすぐさま笑みに変えると、ナイフをクルクルと回しながら嬉しそうに続ける。
「思ったより難易度高いなーこれ。」
教室の扉の外では銃弾が切れたのか、暗梨が銃をカチカチしている。
「まあでも、簡単に出来ちゃったら面白くないか。」
そう言ってチラリと先生に目を向ける。
「なかなかのコンビプレイでしたねぇ。奇襲作戦もグッド!先生なかなかヒヤッとさせられましたよ!」
顔に○を描きながら先生が言う。
「…そりゃどーも!
あ、ところでさ、あたしらの席ってどこ?」
グルリと教室中を見渡し、言うと先生が忘れていたとでも言うように
「ああ、日向さんは狭間さんの後、月乃さんは奥田さんの後ろです。」
「……」
先生の言葉に雫は笑顔のまま何も言わない。しかしその顔は「誰だよそいつ」と物語っている。
と、そこでそれを察した奥田がおずおずと手を挙げ、言った。
「あ、あの、月乃さん、奥田は私です。あ、で、狭間さんは二つ隣の…」
「ああ、ありがとう奥田さん。」
気付いた暗梨はお礼を言うと奥田の後ろの席に着く。
その二つ隣の空席に雫も座ったところで先生が声をあげた。
「さあ、では片付けを再開してください!日向さん達も、自分の弾は自分で片付けてくださいね!」