犬鬼灯

□第1話 暗殺の時間
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椚ヶ丘中学校3−E

本校舎と隔離された教室に、緊張した雰囲気が漂う。

「HRを始めます。日直の人は号令を!」

教壇の前に立ち、そう言ったE組のタコのような担任の言葉の後に、日直である男子生徒の緊張した声が続く。

「…き、起立!!」

ガタッ

それとともに生徒は一斉に立ち上がり、銃を構える。(中には机に立つ者もいる)

「気をつけ!!」

そして、

「れ―――――い!!!!」

号令と同時に発砲が始まる。

ドパパパパパパ

「おはようございます。
発砲したままで結構ですので出欠を取ります。」

クラス全員の一斉射撃を受けながら、何食わぬ顔で全て避け、出席確認を始めるその担任。

「磯貝君」

「……!!」

磯貝と呼ばれた生徒が返事をするが、発砲音に紛れてあまり聞こえない。

「すいませんが銃声の中なのでもっと大きな声で。」

「…は、はい!!」

その後も出席確認は続く。

しかしその間に、銃弾を担任に当てた者は誰一人居ない。

「(速すぎる!!)」

「(クラス全員の一斉射撃で駄目なのかよ!!)」

思うことはだいたい全員同じである。

「居ないのは例の二人だけですね。」

少し残念そうに呟いた後、ニヤニヤ顔に戻り、生徒達に言う。

「残念ですねぇ。今日も命中弾ゼロです。
数に頼る戦術は個々の思考をおろそかにする。目線、銃口の向き、指の動き。一人一人が単純すぎます。
もっと工夫しましょう。でないと…

最高時速マッハ20の先生は殺せませんよ。」

“殺す”
あまりにも現実離れした言葉。
しかし、この教室ではそれが日常なのだ。

と、そこで一人の男子生徒、前原が抗議の声を上げる。

「本当に全部よけてんのかよ先生!どう見てもこれただのBB弾だろ?当たってんのにガマンしてるだけじゃねーの!?」

それに便乗し、他の生徒もそうだそうだと不満を言う。

「では、弾をこめて渡しなさい。」

そこで先生は近くにいた女生徒、岡野に言い、銃を借りた。

「言ったでしょう、この弾は君達にとっては無害ですが…」

そこで自分の触手に向け、撃った。

ドブチュッ

と、そんな音をたて、触手が破壊される。地面に落ちた触手がビチビチとトカゲの尻尾のように動いているが、正直物凄く気持ち悪い。

「国が開発した対先生特殊弾です。先生の細胞を豆腐のように破壊出来る。ああ、もちろん数秒あれば再生しますが。
だが君達も目に入ると危ない。先生を殺す以外の目的で室内での発砲はしないように。」

そこで先生の顔が緑と黄色のしましまになる。

「殺せるといいですねぇ。卒業までに。
銃と弾を片付けましょう。授業を始めます。」

チャイムが鳴り響き、生徒達が箒で散らばった銃弾を集めだした、丁度その時

ガラッ

「スイマセン遅れましたー。」

反省の色などまるでない、そんな明るい声が聞こえた。
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