Books L<Gensou-suikoden>
□Lost topia.10
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皇王アガレスから軍事の実権がルカに渡って以来、転がるように進み始めた都市同盟との戦。
もとより誓いを立てた以上、停戦が明ければ国の為に剣を振るうことはシードにとっても誇りであるはずなのだが、最近は様子が違うことくらい軍事に携わる人間ならわかることだ。
そして、そう理解しながらも手柄と名声の為ならば無駄な血を流すことを良しとする上司のやり方にも苛立ちを抱えずにはいられない。
制圧ではない無用な虐殺は勝利とは別のところにあることだと、シードは考えていた。
無駄な憎しみは自国を脅かす。
他国との武力での渡り合いは、あくまで対等であるべきだ。
ハイランドを愛する彼にとって、その名が汚されることは耐えがたい苦痛だった。
「気持ちは分かる。だが、今内部で諍いを起こすわけにはいかない。」
シードのそんな気質を熟知しているクルガンは、極めて冷静な声で淡々と事実を告げる。
「…それに事実がどうであれ軍議で開戦が決まった以上、我々が都市同盟に負けるわけにはいかないだろう。」
「わかってる!そいつは別の話だ。負けやしねぇよ!」
未だ燻ったような表情を続けるシードを見つめ、クルガンは目を細め諭すように続けた。
「…キバ殿の隊は白狼軍と共に近隣の村を攻めている筈だ。我々が今問題を起こすわけにはいかない。」
その言葉にシードは目を見開く。
皇王アガレスに忠義を尽くしているあの誇り高い将軍を駆り出し、武装もしていない村を攻めていると言うのか?
「…下衆がっ!」
思わず暴言を吐き捨てる。
「国の為を思うなら、今は耐えるべきだろう。…いずれ時がくる。」
「……。」
クルガンが初めて発したそのセリフに、思わず彼を見る。
(あんたのそのセリフが一番聞かれちゃマズイだろ)
視線を遠くに佇む相棒の姿に、シードはわニヤリと笑みを浮かべた。