Books L<Gensou-suikoden>

□Lost topia.10
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まだ日の短いこの時期の長い夜が明ける。

一昨日、急な要請で出立したソロン・ジーの率いる第四部隊がハイランドから都市同盟の領地に入れたのは夜が明ける少し前だった。

夜通しで歩き続けるという普通なら脱落者が出そうな強行軍だったが、ハイランドの兵士は疲労すら顔に出さずに黙々と戦の準備を進めていた。

この国の兵の中では、脱落は死を意味することすらある。


白み始めた空の下、その存在が霞みかかった月に気づき足を止めたシードは背後から何度も大声で名前を呼ばれ、不機嫌そうに振り向いた。

「…シード様!」

「うるせぇな!一回で聞こえてるよ!」

眉間に皺を寄せ、ただでさえキツく見える目尻を更に吊り上げたシードは、すぐ後ろに控えていた兵士に声を荒げた。

「も、申し訳ありません!遅れていた兵站が届きまして…」

気の毒なくらいに縮み上がった兵士が折れそうな程頭を下げ、それでも必要な報告だけは早口で喋り切る。
すると背後から対照的に落ち着いた佇まいの男が現れた。

「クルガン様。」

「それならば馬の準備を急いでくれ。終わるのを待たずに召集がかかる可能性もある。急ぐんだ。


「はいっ!!」

ようやく指示がもらえた兵士が走り去り、ガチャガチャと甲冑がなる音が小さくなるとクルガンがシードに向き直った。

「どうかしたか?」

いつも通りの無表情と咎めるともないその視線に、シードは苛立ちを隠すことなく舌打ちをした。

「…クルガン、あんたは信じているのか?少年隊の弔い合戦だとか言いながら、実権が変わってから妙にヤツの部隊が血を流してまわってる。この時期に国境警備にあたる部隊まで駆り出して、手当たり次第焼き討ちだ!これがハイランドの正規の部隊の仕事なのか⁉」

一息にまくし立て、挑むような瞳でクルガンを見る。
クルガンは辺りの人の気配に気を配りながら瞳を伏せ、小さくため息をついた。

「…あまり感情的になるな。誰に聞かれているとも分からん。」

「はっ!かまわねぇよ!」

熱くなっているときのシードは、それこそまわりの顔色を伺うということがない。
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