青エク

□君の神様
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清潔な匂いと静かな空間。車体の揺れる音だけが響く。窓の外には山や田園風景が飛ぶように過ぎていく。
東海道新幹線のぞみ博多行きの自由席、朝祇は窓の光景を眺めながら、窓越しに見える隣のピンク頭がちらついた。なぜか、朝祇は廉造とともに京都に行くことになっていた。



***



いい加減覚悟を決めて、母・真由美に祓魔師になることを伝えに行かなければならない。そう思ったのが一昨日。
それを昨日伝えてから、寝室のパソコンで新幹線の予約状況を確認していると、廉造がそわそわとやって来た。


「なぁ、朝祇」

「どした?」

「俺も一緒に行ってええ?」

「え、なぜ」


わざわざ学校を休んでまで、一緒に京都に行くなどと言い出す廉造に首を傾げる。何か用事でもあるのだろうか。


「いやぁ、ほら、朝祇が祓魔師になるて決めたんは、俺も関わっとるやろ?せやから説明するんに俺もおった方がええかなて」

「そうか…?」


別にいてもいなくても一緒では?と思う。真由美は廉造のことを知っているし、そもそも真由美は恐らく朝祇の決めたことに反対しない。


「それに、せっかく帰って来れたからには朝祇となるべく一緒におりたいねん」

「…、でも…」


それは朝祇も同じだ。側にいてくれるならそれだけで嬉しい。だが学校も塾も休んでついてくるだけ、というのも心苦しい。


「俺ら、なんだかんだ2人で旅行とかしたことないやん?たまにはええやん、2人で小旅行みたいなん」

「…分かった」


そしてついに、その言葉で折れた。仕方ない、もとから一緒に来てくれるというだけで嬉しかったのに、ここまで言われてはいくら朝祇といえど我慢できない。一緒に旅行したい。


廉造もうまいことやるな、なんて思って隣の席を見れば、ばっちり目が合った。
少し驚くと、廉造はにっこりと笑った。


「いやぁ、こういうんもええなぁ」

「2人だけってのも新鮮だしね」


いつも勝呂や子猫丸、燐がいたから、こうやって2人きりで遠出するのは初めてだ。
もちろん2人とも私服で、廉造はTシャツの上にファーつきの焦げ茶のジャケットを羽織り、紺のチノパンを履いている。朝祇はシャツに黒のスキニー、紺色の薄手のトレンチコートだ。

すると、前の扉が開いて車内販売のカートが来た。2人揃って目を走らせる。


「悪くない」

「俺はあんまタイプやないけど、めっちゃええ匂いしそう」

「分かる、石鹸系のな」


すぐさまカートを押す女性スタッフの品評を終えると、2人とも財布を取り出した。来たら買いたくなってしまう新幹線マジックである。


5分ほどしてカートがやって来る。通路寄りに座る廉造がコーヒーを頼み、テーブルを出して受けとると、朝祇も注文する。


「バニラアイスひとつ」

「ありがとうございます、420円です」


お金を払って冷たいアイスとプラスチックのスプーンを受けとる。カートとお姉さんが通り過ぎると、廉造は意外そうにこちらを見た。


「夏でもないんによう食うな」

「新幹線でアイス食べるの好きなんだよね。不浄王のときは塾生いたから買わなかったけど、今は廉造だけだし」

「はぁ〜、かわええなぁ〜」

「なんだそれ」


どういう返答だ、と思ってアイスを食べ進めると、ふと廉造に相談したいことがあったのを思い出した。電光板に浜松町を通過、と出たのを見ながら口を開く。


「廉造、昨日の夜ちょっと考えたんだけどさ」

「ん〜?」

「母さんに、付き合ってることも言おうと思うんだ。廉造が良ければだけど」

「……へっ?」


中3のときの事件をきっかけに、朝祇と廉造の関係は志摩家にはバレている。というか志摩家が隠れているその前で告白し合った。
一方、真由美にはまだ伝えられていなかった。シングルマザーということもあって、言うのが憚られたからだ。


「廉造がついてくるって言うから、それならって。祓魔師になりたい理由にも深く関わることでもあるから」

「そ、それって、息子さんを僕に下さいイベントっちゅーこと…?」

「まぁ、そんな大層なもんでも…」

「何言うてんねん、一大事やで!ちょいと色々準備せな…!いったん出張所寄ってええ!?」

「え、うん、いいけど…」


面倒くさがりそうなことだが、廉造は張り切って、だが焦ってもいるようだった。そんな大袈裟な、と思う反面、朝祇のこととなると面倒だと思わないでくれる廉造が嬉しいのも事実だった。
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