青エク

□すぐそばで
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ふと目が覚めると、柔らかな朝日がそれなりに高い位置から室内を照らしていた。白を基調とした独特の部屋は、一目で病室だと分かる。
ゆっくりと起き上がると、話し声がいったん止んで、パタパタと人が近付いてきた。そちらを見ると、塾生が勢揃いしている。


「おっ、目ぇ覚めたか一ノ瀬!」

「一ノ瀬君、どっか痛いとことかあらへん?」


燐と子猫丸がまず駆け寄り、あとから皆も来てくれる。


「…大丈夫、ありがと」

「一ノ瀬んこと柔造が運んできたときはビビったでホンマ」

「何があったんだよ昨日?」


勝呂はどかりと隣のベッドに腰掛けて心配そうに訊ねてくる。燐と子猫丸は丸椅子に、しえみと出雲は勝呂の隣に座った。起き抜けなのもあるが、どこか頭がぼんやりとしてしまう。それは、眠気だけによるものではない気がしたが、何でかは分からない。


「…父さんの、再婚相手の家族も巻き込まれたんじゃないかって、思って」

「っ!」


朝祇の父親のことを思い出したのか、勝呂たちは息を飲む。出雲はどこかで勝呂たちから聞いたのか、何のことか分かっているようだった。


「……再婚相手の女の人は分からない。けど、5歳くらいの娘は、いた。父さんの家系、陰陽師だったからさ。幼くても、ゾンビ化してた」

「そんな…!」


しえみは口許を覆い、目を見開いた。 他も表情が険しくなる。


「柔造さんに祓ってもらって、そのあと、意識飛ばしたんだと思う。…ここまで運んでもらったんなら、お礼言わないと」

「…あんた、大丈夫なの?」

「神木さん…?」

「もっとこう…あるでしょ、泣くとか。あたしが言うのもなんだけど」


すると、出雲は目をそらしながら言った。心なしか目元が赤い。


「神木さんこそ、大丈夫だったの?」

「…さっき、宝に鍵もらって、保護された妹の月雲に会ったわ。あたしのことは忘れてて…ちょっと、ほんとにちょっとだけ泣いたわ。って、あたしのことはいいの!」

「そうだよ!神木さんみたいにたくさん泣くのも大事だよ!」

「ちょっ!?あんたねえ…!!」


しえみはまったく悪気がなかったようだが、せっかく出雲が隠していたことがモロバレだ。もとからバレバレだったが。それが少しおかしくて、くすり、と笑うと、全員驚いたようにした。


「はは、…ほんとに、大丈夫だよ」

「でも…悲しくねぇの?」


なおも心配げな燐に、まぁ仕方ないよな、と思う。皆、それだけ優しいのだ。


「悲しくない、わけじゃないと思う。…でも、分かんないんだ。自分でも、自分の気持ちが」


本当に分からないのだ。悲しいのだとは思うのだが、何となく頭がぼんやりとしてしまって、自分のことなのにうまく感じられない。
思えば、廉造がいなくなってからすでに始まっていた。空虚な気持ちを感じていたところに、突然の父との対面、そしてその死。その後さらに助けられなかった腹違いの妹を目にした。立て続けにことが起きて、許容オーバーなのかもしれなかった。


「…こればっかりは、時間が解決してくれるの待つしかないからさ」

「まぁ…そうだけどよ…」

「あ、じゃあ奥村、この前の学園祭で出してたあら汁とお握り作ってよ、食べなかったメニュー食べたい」

「…仕方ねーな、超絶うめぇの作ってやるから覚悟しとけ!」


色々と言いたそうではあったが、燐は最後にはそうやって合わせてくれた。それに笑って返すと、不思議な感じがした。さっきもそうだった。
笑えるんだな、と、漠然と思った。
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