青エク
□〜後編〜
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廉造は出雲に宛がわれた部屋に向かって、様々な職員たちとともに先頭を歩いていた。
ここはイルミナティ極東研究所。島根県の稲生にある施設だ。
学園祭での宣戦布告と全世界での同時自爆テロを引き起こしたあと、イルミナティは出雲をここへ誘拐した。それを手引きした廉造もまた、ここに来てイルミナティの制服を身に纏っている。
ネイビーグリーンの詰襟の制服で、襟元や前見頃、袖に赤や白、金のラインが入っている。白いスボンとロングブーツもあって、全体的に固いため、上着は前を開けて中の黒いシャツを見せている。錫杖を背中に背負うための金色のショルダーベルトは廉造だけがしているものだ。
それに赤い腕章を左腕につければ立派なイルミナティの隊員である。
IDカードをタッチしてアンロックすると、扉が自動で開く。まずは廉造だけが中に入り、簡素なベッドで座る被験体姿の出雲にいつもの緩い笑顔を向けた。
「あ、出雲ちゃん!起きとったんやね、良かった〜」
昨晩、学園の展望台で廉造は宝、そして出雲と対峙した。対面するのはそれ以来だ。
宝はメフィストが雇う駒で、計画がスムーズに進むための調整役をしている。出雲の誘拐はメフィストの計画の前提になっており、さらに廉造がここからは本格的にイルミナティ側に行くようにもしなければならなかったことから、あの後夜祭は非常にデリケートな場面だった。
間違っても、ヴァチカンの指示で動いていたシュラや候補生たちに出雲を保護されては困るため、わざわざ宝は展望台まで出雲を誘導したのだ。そして月雲の人形を召喚して出雲に持たせることで発信器代わりとし、今日にでも候補生たちを稲生へ向かわせるのだろう。
無事、そうしたメフィストの計算によって誘拐は成功し、晴れて廉造もイルミナティへ潜入した。イルミナティの中でも暴力装置として機能する親衛隊の下っ端として、廉造はここにいる。
「…それで、上の人達が出雲ちゃんに話があるて言うてはるさかい、今から入ってもらうな?」
そう言うと、廉造は「どーぞ」と呼び掛ける。そして、廊下から室内に続々と人が入ってきて、出雲が体を強張らせた。
そこには、全身を包帯で巻かれ、乱雑に髪が飛び出した神木玉雲の姿があった。車椅子に乗せられ、虚ろに出雲を見つめる。
「…ずも…た…すけ…て……」
「かあ、さん、」
親衛隊に連れられやって来た玉雲に出雲が愕然とすると、不快な甲高い笑い声が響いた。小柄でぶくぶくと太った、汚ならしい外見の男。
「きゃーっきゃっきゃっきゃっ!ご覧の通りこのババァ…っとお、お母さんの肉体の劣化が思ったより早くてさぁ。もう使い物にならないから出雲に来てもらっちゃったぁ」
外道院ミハエル、この極東研究所を一任される科学者だ。その名の通り、非道なことを平然とやってのける。
本来は、出雲が祓魔師になって手騎士二種を取得し、降魔術を行うようになってから戻る予定だった。しかし、外道院は玉雲への実験によって、同質でなくとも悪魔を憑依、定着させる技術を生み出した。
京都の事件を引き起こした藤堂も、その技術によって安定した悪魔堕ちができたのだ。
それでも、悪魔の憑依を強制するのはまだまだ難しく、稲生を訪れた観光客をゆめタウンに拉致し、それを使って1万人単位で人体実験を行っても、大多数が即死した。生き残っても肉体がかなり壊死し、藤堂のようにはならない。それでも、通常のゾンビと違い脳幹を破壊しても即座に再生する不死身となったのだから、凄まじい技術である。
それを確立させた今、元から九尾との適合率が高い出雲に九尾を憑依させることになったのだ。