青エク

□イルミナティ編〜前編〜
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翌朝、朝祇は勝呂と子猫丸とともに正十字学園駅へと向かっていた。
イルミナティによる宣戦布告のあと、朝祇は寮に戻り、勝呂たちからメフィストより下された任務のことを聞いた。
雪男を隊長とする候補生たちによる先遣隊の編成だ。なんと、候補生と雪男だけでイルミナティの日本における根拠地へと向かうのだそうだ。

現在、正十字騎士團は空前の大混乱の中にある。ヴァチカン本部を始め、全世界の支部、出張所が熾天使による自爆攻撃を受けており、三賢者は負傷、各国支部も国内の被害状況の把握に努めている。
日本支部も同様で、メフィストは崩壊した結界の修復とマスコミへの対応に追われていた。学園の全教育機関は休校となり、心配した家庭は生徒の帰宅をさせている。
学園祭というタイミングを襲った東京の名所での爆発事件は、マスコミでもテロとして疑われていた。警察は表では対応しているが、実際は正十字騎士團の管轄となって処理されている。

また、京都出張所のように施設が地上にあるところは爆発が市民の目に触れているため、日本各地、引いては世界各地で同時多発的に発生した宗教施設での爆発を大掛かりなテロと推測するものもあった。概ね正解である。

そのような混乱にあって、イルミナティに対してすぐさま精鋭を向けることができないのが現状だった。そこで、先遣隊として候補生が差し向けられたのである。


その話をした際、勝呂と子猫丸は暗い面持ちだった。帰ってきたのが一人足りない時点で、その理由は明白だ。


廉造は、イルミナティに同行して消えた。


それを悔しそうに話す勝呂に、朝祇は罪悪感を募らせた。前もって何もかも知っていたのだ、驚いてはいない。
ただ、実際に姿が見えないことは、どうしても朝祇の気を沈ませる。分かっていても、割り切れるものなどではないのだ。
だから、演技せずとも勝呂たちは朝祇を疑うことはなかった。ちゃんと、恋人が突然スパイだったことを知って落ち込む様に見えているはずである。

路面電車で駅へと向かう途中、街のところどころが黒焦げた廃墟となっているのが見えた。空には報道ヘリコプターが飛び交う。改めて、今までの日常が崩れた事実を突き付けられた。


正十字学園駅に着くと、奥村兄弟としえみ、見送りの朴、そして宝がいた。
宝ねむ、謎に包まれた上級生はなんと、メフィストの駒だったらしい。上級祓魔師の実力を持ち、メフィストが雇ったのだと言っていたそうだ。

切符を買い、改札を通る。朴は心配そうに見送ってくれた。


「私には何もできないけど…皆、気を付けて」

「あぁ、任せろ!」


燐はさほど変わった様子ではない。力強くそう朴に返した。


『間もなく、2番線に、京急空港線直通、普通、城南環状新線外回り、京浜島、羽田空港方面行きが参ります。平和島、戸越方面へは、1番線の内回り、東急東横線直通電車をご利用下さい』


アナウンスが流れる中、しえみは何やら朴と話し、雪男に急かされる。少し早足でホームに出ると、それなりに混み合った電車に乗り込んだ。

今回は一般人に紛れるために全員私服である。朝祇はシャツにカーディガン、テーラージャケットを重ね、伸縮性のあるスキニージーンズを履いている。

電車内で、ようやく雪男から目的地の説明が入った。


「目的地は島根県、稲生(いなり)大社付近だそうですんで、これから羽田空港へ向かい飛行機に乗ります」

「飛行機!?俺乗ったことねぇ…」

「わ、私も…!」


動揺する燐としえみを他所に、他はそれなりに経験があるため落ち着いている。ちなみに場所が分かっているのは、宝がどうやってか出雲に発信器機能のようなものがついた人形を持たせているかららしい。正確には、召喚した人形の場所が探れるからだそうだ。

また、稲生は朴と出雲の出身地でもあるらしい。

大体のことを知っているとはいえ、詳しいことは分からない。一体これから何が待ち受けているのか、検討もつかなかった。


『間もなく、羽田空港第二ターミナルビル駅です。東京モノレール空港線は、お乗り換えです。第二ターミナル駅から京急蒲田駅までは、京急空港線に入ります』


沈黙の降りた一同に、アナウンスが空虚に響く。二人いないだけで、こんなにも足りない感じがするのだな、と漠然と思った。
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