青エク

□学園七不思議
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夏休みが明け、2学期が始まった。
祓魔塾は休み中もあったため、特段生活リズムが変わるわけではないものの、やはり学校の始まりというのは億劫なものだ。
2学期が始まって1週間、ようやく体は学校があった頃の感覚を取り戻してくれつつある。

こうしてまた平和な朝を迎えられたのも、ほんの1ヶ月ほど前の大事件を無事に解決できたからに他ならない。


***


不浄王を倒したあと、最も重症だった達磨はけろりと回復し、他の祓魔師たちも何ともなく復帰できた。
塾生たちも京都旅行に行く時間も作れて、より仲良くなれたと思う。

結局、主犯の藤堂は捕まらなかったものの、共犯の蝮は除名処分の上でなぜか柔造と結婚することになった。達磨は虎子の手伝いに励むようになり、明陀宗のしがらみは晴らされた。

変わったこととしては、朝祇と黄龍のこともある。
京都の街から離れたいということで朝祇に半憑依した黄龍だったが、1年過ごす内に、何だかんだ京都のために力を貸してくれるようになった。今や朝祇から離れればいつでも好きなところに行けるし、それはまったく難しいことではないのだが、黄龍は朝祇に『危なっかしくて放っておけん』と言って憑依を続けている。そんな黄龍の優しさに、ちょっと泣きそうになったことは、恐らく黄龍だけしか気付いていないだろう。
そんなこんなで、朝祇の左胸の下辺りから額まで真っ直ぐ伸びるカラフルな唐草模様ができたこと、それが横切る左目の光彩が黄色になったことは、見た目に分かる変化となった。

そして今、平穏な生活に戻ることができている。


残暑の厳しい朝、いつものように4人で人波に乗って寮から学園へ向かう。


「そういや、なんで昨日は塾休みやったんやろうなぁ」


すると、廉造がふとそんなことを言った。実は昨日、急に休塾の連絡が入って休みになったのだ。そのため、どこか物足りないような気がする。


「最近、騎士團への相談件数が急に増えとるらしいさかい、それかも分からんね」


それに子猫丸が応えた。廉造は「そーなん?」と適当に返している。聞いておいて興味なさげだったため、勝呂にどつかれていた。最近、勝呂が父親のように見えてくる。

子猫丸の言う相談とは、正十字騎士團へのお悩み相談の件数だ。歴史的に重要な役割を担ってきた正十字騎士團は、基本的に権威ある組織だと社会に見なされてはいるものの、いくら悪魔といっても見えなければ信じられない。日本をはじめ各国行政府は騎士團に対して協力的で、信じられなくてもデータとなって現れる超常現象を前に騎士團との協力体制を作らなければならなくなっている。
だが人々にとってはそんなことは分からない。民間では正十字騎士團は祈祷師やカウンセラー扱いである。
そのカウンセリング業務として、騎士團では悪魔のものかもしれない事案について人々が相談をしに来たり対応を依頼しに来たりということへの窓口を開いている。


「騎士團の日報見れば載っとるよ。世界中でお悩み相談が増えとるらしいんや」

「ほぇ〜」


相変わらずの廉造に子猫丸も苦笑したところで、4人は昇降口に着いた。昇降口といっても、履き替えるのは室内用の靴なのだが。
廉造と朝祇は同じC組として揃って下駄箱に向かうが、向かいのD組に燐の姿を見つけ、絡みに行くことにした。何だかんだ、部活をやらずに塾でずっと同じ時間を過ごすだけあって、塾のメンバーが1番仲のいい 存在となっていた。
靴を履き替えると、A組で履き替えてきた子猫丸が合流し、燐のところに向かう。


「奥村君、はよー!」

「おはよう!」

「おはよ」


まず3人で追い付くと、燐は乱雑に靴を床に放りながらパッと顔を上げる。


「おはよ!あっ、そだ、お前らに聞きたいことあったんだ」

「なんなん?」


燐の疑問には子猫丸が答えるスタイルは健在である。だが、今日は廉造がカッと目を見開いた。


「奥村君!!そっそそそ、それってまさか!!」

「えっ?」

「ラブレターやん!!」

「なに!?」


急いで燐は靴箱の中を確認する。その中には、確かに可愛らしい便箋が入っていた。


「ええええ!!なんで奥村君だけ!!ずっこいわ!!」

「まま、マジで…!ついに俺の隠れファンが…」


はしゃぐ燐が裏側を確認すると、そこには可愛らしい文字で「メフィストより♡」と書かれていた。4人揃って微妙な顔になる。
遅れて勝呂が靴を履き替えてやってきて、「おはよーさん、なんやそれ」と覗き込んだ。
それに燐は耐えられなくなったのか、思いきり手紙を床に叩き付ける。


「メフィストからかよ!!気っっ持ち悪い便箋使いやがって!!」

「見た目はあれやけど、大事な用かもしれへんで。はよ読み」

「え〜…」

「坊お父さんみたいですね」

「誰がお父さんやねん子猫丸?」

「あっはい、」


燐は渋々読みはじめる。子猫丸はそんな勝呂に、朝祇と同じことを感じていたらしい。


「……ん?どういう意味?」

「…どれ、」


みかねた勝呂が燐の手紙を見てみると、そこには燐の処刑が保留になったと書いてあったらしい。いい知らせに空気は和らぐ。
続いて2枚目を見ると、再び燐は眉を寄せて訳がわからないという風にする。


「私の屋敷の晩…なんて書いてあんのこれ?」

「ば!ん!さ!ん!」

「バーサン?」

「勉強せえ!!」


どうやら、今晩の晩餐に燐は招待されたらしい。
律儀に教えてやった勝呂に、燐は「お父さん…」と真面目腐った顔で呟く。それに勝呂がまたキレたところで、突然悲鳴が響き渡った。
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