青エク

□転機と決意
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7月17日、ついに1学期が修了した。私立の名門だからか、テスト期間が長く、つい今日テストが終わった。明日からは夏休みの始まりだが、祓魔塾は続く。
母親からは帰ってこないのか連絡があったが、まだ考え中とだけ返しておいた。廉造や勝呂たちは、帰る気がないらしい。家出当然の上京だったのだ、帰りづらいだろうし、廉造たちも勝呂を置いていくわけにはいかない。
朝祇は気を遣わなくていいと勝呂に言われたが、そもそも朝祇は違うところで迷っている。

メフィストに提案された、アメリカへの留学である。朝祇が祓魔師になる前にある程度の力をつけなければ危険だということでの提案のため、いかなければならないとは分かっている。あちらからの承認も得たらしい。

しかし、1人で異国に向かう不安やそこでの修行への緊張、そして単純に廉造と離れるのが嫌だという思いなど様々な意味でナーバスだ。留学など考えたこともなかったのに振って沸いた提案に、心の準備ができていないのである。
情けないとは思うが、やはり所詮は高1のガキなのだと実感する。怖いものは怖い。

テスト直前にそんなことを言われたものだから、ずっと気がそぞろだった。廉造にも心配げな顔をされてしまった。


結局結論を出せないまま、終業式を終えて廉造たちと4人で高等部の正門へ向かっている。
今日はこのまま路面電車で学園町の麓の森林地帯へと赴き、塾の林間合宿に参加することになっている。合宿の終わりまでには結論を告げなければならない。結論というか、行かなければならないことは分かっているので決意という方が正しいが。

エントランスを抜けて屋外へと出て、正門へ向かう大階段を降りる。真夏日の日差しが厳しい。すると、少し前を見知ったチンピラが歩いているのが見えた。


「奥村君!」


気づいた子猫丸が呼び掛けると、学園きってのチンピラこと燐が振り返る。


「おお、子猫丸!」


燐は階段を降りたところで待っていてくれる。合流すると、もう見慣れた5人で歩き出す。


「一般の生徒さんは里帰りしはる人がほとんどなんやね」


子猫丸は小さいながらに周りを見渡す。大きな荷物を持って、正門に面する私道にずらりと並んだ黒塗りの高級車へと向かう生徒たちの群れが広がっていた。
私道は幹線道路に繋がり、その幹線道路は首都高速に接続する。帰郷する生徒たちには親切な街だ。


「お前ら全員京都だろ?いいよなぁ、風流で」

「なんや風流て、普通や普通」


燐は実家が京都というだけで風流だと羨ましがる。勝呂は呆れたように言うが、朝祇は1年間だけだったこともあり、わりと燐に同意だ。やはり京都は京都だった。
廉造に夜の寝静まった二年坂と三年坂を案内してもらったときなどは、人通りの絶えた古風な街並みが電灯に照らされ幻想的だった。


「だいたい、僕らが里帰りするかどうかも…おっ」


すると、目がいい廉造が何かに気づいた。視線を辿ると、高級車の並びに出雲と朴がいる。
2人のもとまで近付き、別れの挨拶を交わすところに混ざる。


「朴さんも帰るんか、寂しなるなぁ」

「ふふ、また2学期にね」

「元気でな!」

朴はそう言う廉造と燐に微笑んで頷く。おっとりとしていて癒される。


「僕の声が聞きとなったらいつでも連絡してくれてええで」


すると、燐を押し退けて廉造が番号を書いた紙を指に挟み朴にどや顔をする。出雲は「バッカじゃないの!!」と叱責した。


「あはは、ありがとう」


笑って穏やかに返す朴はしかし、紙は受け取らなかった。さりげない上手いやり方である。
そんな茶番も、朴の帰る時間となりお開きとなる。車に向かった朴に手を振って、朝祇たちも路面電車の停車駅に向かうことにした。


「あ、そうだ廉造」

「んー?どしたん朝祇」

「いやぁ、声が聞きたくなったから柔造さんにでも電話しようかなぁと思って番号をな」

「!?さ、さっきのはそういうんやな…」

「勝呂〜」

「ごめんて朝祇!!」
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