青エク
□鬼ごっこ
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任務を終え東京に戻ってきた朝祇たちは、すぐさま学園近くにあるメッフィーランドという遊園地に駆り出されることになった。まだ帰ってきて2日と経っていない。
文句を言う廉造を宥めながら、2人は勝呂、子猫丸とともに指定された銅像の前にやって来た。メッフィーランドという名前から察していたが、まさかメフィストの銅像まであるとは。悪趣味にも程がある、とまじまじと見てしまった。
少し遅れて燐が到着し、山田と宝も着く。雪男と椿は引率としてすでに銅像前に控えている。まだ出雲としえみが着いていないため、もう少し待ちそうだ。
「志摩さんたちのとこは、任務どないでした?」
銅像の足元、台座に腰掛ける4人と燐がとりとめもなく話していると、子猫丸が思い出したように切り出した。
「あー、任務っちゅうか…」
廉造、朝祇、燐は顔を見合わせる。任務と言っていいのか分からないがなかなか大変だったクラーケンのことを思い出す。
「めっちゃイカ」
「イカやったね」
「イカだったな」
「イカ、ですか」
3人揃った感想に、子猫丸は顔をひきつらせる。すると勝呂は「あーあ、おもろないわ!」と突然立ち上がった。燐はむっとしたが、どうやら勝呂の視線の先は燐ではない。
「何の働きもせえへんやつがおってもしゃあないやろ!」
その鋭い眼光が睨むのは、ゲームに興じる山田と無言の宝。子猫丸は宥めるが、勝呂はケッ、と吐き捨てた。
「遅れてすみませ〜ん!」
そこに、しえみの声がかけられる。全員がそちらを見た瞬間、目を見開いた。悲しいかな、男の性で視線は全員同じような動きをしたことだろう。
しえみは、普段の着物ではなく学園の制服を着ていた。後ろを走る出雲と違い、白いニーハイにミニスカだ。出雲の黒いニーハイもラインがはっきりして良いが、白もまた良い。
何よりも、豊満なバストがシャツの下で窮屈そうに揺れているのが男心をくすぐった。
「し、しえみ!?どうした!?着物は…」
「着物じゃ任務には不向きだろうからって、理事長さんに支給していただいたの。あっ、神木さんに着方を教えてもらっていたので遅れました!」
「なんで私が…」
少し恥ずかしいのか、しえみは雪男から燐たち男子陣に向き直ると頬をかく。
「変じゃ、ないかな…?」
「ええよええよ、かわええよ杜山さん」
「メフィストグッジョブとしか言えない」
すぐさま返答したのはやはりというか、廉造と朝祇だった。確かにお互いが一番だが、可愛いものは可愛い。可愛いは正義だ。
今回ばかりは勝呂と子猫丸も頷いている。健全な様が見られて少し安心した。
「では、全員揃ったところで2人一組のチーム分けを発表します」
とにもかくにも、ようやく全員揃ったので雪男はバインダーを見ながら全員を前に喋り始める。
「三輪・宝、勝呂・山田、志摩・神木、杜山・奥村・一ノ瀬。最後だけ3人でお願いします」
朝祇は燐、しえみと一緒だ。しえみは燐と一緒だったのが嬉しいらしく、「一緒だね!」と笑う。俺も一緒ですよ、とはさすがに言わない。
「それでは任務内容を説明します。ここ、メッフィーランドでゴーストの目撃、および被害の報告が複数されています。皆さんには、園内でそのゴーストを捜索もらいます。ランドを閉鎖している今日中に必ず見付けてください」
都内の遊園地としては、市ヶ谷や狛江のものと並んで非常に広大なものであるメッフィーランドをこの人数で探すのは簡単なことではない。だが、少なすぎるわけでもないため、難しくもない。7月前半の平日とはいえ、これから夏休みの書き入れ時、時間をかけたくはない事情が察せられる。
「ゴーストを見つけたら、僕か椿先生に連絡してください」
「ごほん、では、ゴーストの定義を、神木くん」
「はい。ゴーストは、人間や動物の死体から揮発した物質に憑依する悪魔で、生前の感情に引きずられる傾向があります」
足がなく半透明のゴーストは、まさに典型的な幽霊の姿である。園内で目撃されているのは子供の姿だそうだ。
「何か質問は?」
「あの、ゴーストは何体おるんでしょうか」
手を挙げた子猫丸に、雪男は一体だと答える。しかも、被害も腕を引っ張られたりスカートをめくられたりというものらしい。燐がやたらスカートに反応していた。
「他に質問はありませんか?……なければ、解散!」